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第三章連載中 元義妹は元義兄と暮らしたい〜他人になったはずの元義妹と再会したら学校でも猛アタックしてきて困ってます〜  作者:
2人の時間

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新しい友達

翌朝の光は、昨日までとは少し違って見えた。窓から差し込む陽光が、リビングの空気を透明に洗い上げているようだ。キッチンから漂うコーヒーの香りと、トーストが焼ける匂い。湊はソファでくつろぎながら、背伸びをする凪の姿を眺めていた。


「おはよう、みーくん。昨日は……よく眠れた?」


凪が少しだけ頬を染めて、湊の隣に座る。


「ああ。最高に幸せな夜だったよ。凪はどうだ?」


「私も。……みーくんの腕の中が、世界で一番落ち着く場所だって再確認した」


凪は湊の肩に頭を預け、テレビのニュース番組をぼんやりと見つめる。湊は彼女の指先をそっと握った。凪の温もりは、昨日までのあらゆる不安を溶かしてくれるようだった。


「そういえば、千尋から連絡が来てたんだ。今日、昼に少し話があるって」


「千尋? 何かあったのかな」


「さあな。でも、昨日の一件で少し思うところがあったのかもな」





昼休みの屋上。爽やかな風が吹き抜ける中、千尋は不敵な笑みを浮かべて二人を待っていた。


「よっ、お熱い二人さん。昨夜はいい夜を過ごせたか?」


「千尋、いきなり何を言ってるのよ!」


凪が顔を真っ赤にして千尋を叩く。千尋はケラケラと笑いながら、二人を面白そうに見ている。


「冗談だよ。……でもね、昨日のこと、香織ちゃんと少し話したんだ」


その言葉に、湊と凪の空気が少しだけ引き締まった。


「あの子、昨日、完全に吹っ切れた顔をしてたよ。湊、あんたがちゃんと向き合って、あの子を一個人として尊重したのが大きかったんだと思う」


「そうか。……なら、よかった」


湊は安堵の息を漏らした。千尋は続ける。


「でもね、あの子、一つだけやり残したことがあるって言ってた。『もう一度、湊くんと凪ちゃんと、三人でちゃんと話したい』って」


凪は驚いて目を見開いた。


「三人で? 香織さんと私たちが?」


「そう。昨日までは自分の中で作り上げた『図書室の少年』を追いかけてたみたいだけど、今はちゃんと『今の湊』と『凪』を見てる。……あの子、自分の口で『友達になりたい』って言いたいんだよ」


湊は凪の顔を見た。凪は一瞬だけ戸惑ったが、すぐに柔らかく微笑んだ。


「いいよ。……私、香織さんとお話ししてみたい。香織さんだって、大切な人なんだよ」


「凪、本当にいいのか?」


「うん。……ねえ、千尋。どこで会うのがいいかな?」


「場所は私が設定しておくよ。……でもさ、一つ聞きたいんだけど、凪。あんた、あの子と友達になれるか?」


「……うん。少し複雑ではあるけど、みーくんがかっこよくなる前からみーくんに好意を持ってたってことは悪い人じゃないと思う。それに、みーくんを大切に想っていた人なら、きっと分かり合えるはずだよ」


「そう。じゃあ放課後またここで」




放課後の屋上。ドアが開き、香織が入ってきた。彼女はどこか晴れやかな、それでいて少しだけ緊張した面持ちで、二人のもとへと歩み寄ってくる。


「……湊くん、凪ちゃん。少し、話せるかな」


「香織さん! 待ってたよ」


凪が立ち上がり、香織の手を取った。香織は少しだけ目を見開き、そして深く、静かに頷いた。


「……ありがとう。凪ちゃん。……昨日、湊くんと話して、分かったの。私の恋は、彼を想う時間じゃなくて、彼を見つめることで私自身を守っていた時間だったんだって」


香織の言葉には、迷いがなかった。湊は彼女の瞳を見て、昨日の決別が本物だったことを悟る。


「香織さん、昨日は本当にごめん。……俺は、ずっと君に気づいてやれなかった」


「ううん、湊くん。私、昨日湊くんの口から、二人のこと全部聞いたでしょう? あの話を聞いて、私、ようやく分かったの。二人が積み上げてきたものは、私には一生踏み込めないほど深く、そして美しいんだって」


香織は少しだけ寂しそうに笑ったが、その笑顔は凪に向けられたものだった。


「凪ちゃん。私、湊くんのことが大好きだった。でも、今はね、二人が一緒にいる姿を見るのが、以前よりも少しだけ楽になったんだ」


「香織さん……」


「これからは、二人のことを遠くから見るだけじゃなくて、時々お茶したり、凪ちゃんとも話したりできるような、そんな関係になれたら嬉しいな。……もちろん、警戒されても仕方ないと思うし、迷惑だったら言ってほしいんだけど……」


「迷惑だなんて、そんなことないよ」


凪は香織の手を握ったまま、まっすぐにその瞳を見つめた。凪の表情には、少しの濁りもなかった。


「香織さんがみーくんを想っていた時間、それはきっとすごく純粋で、大切なものだったんだと思うから。それを否定したくないし、むしろ……香織さんとお話しして、どんな風にみーくんのことを見ていたのか、こっそり教えてほしいな」


「……え?」


香織は呆気にとられ、それから少しだけ目を丸くして笑った。


「凪ちゃん、本当に不思議な人だね。普通、自分の恋人に好意を持っていた人なんて、警戒して当然でしょう?」


「うーん、そうかな? でも、今の私にはみーくんがいて、みーくんが私を選んでくれたっていう絶対の自信があるから。それに、みーくんを大切に想っていた香織さんは、みーくんの良さを誰よりも知っている仲間だもん」


凪がそう言ってケラケラと笑うと、香織もつられて肩の力を抜いた。千尋は隣で腕を組みながら、呆れ半分、感心半分といった表情で二人を見ている。


「まったく、凪は本当に聖母みたいだねぇ。湊、一生かけて私の親友を幸せにしないとバチが当たるよ?」


「……ああ、言われなくても分かってる」


湊もまた、凪の器の大きさに改めて胸が熱くなるのを感じていた。


「香織さん。俺たちも、香織さんと話がしたいと思ってたんだ。昨日の今日で、いきなり吹っ切れて友達になるとかは難しいかもしれないけど……まずは、みんなで一緒に、ゆっくり話さないか?」



「本当に、湊くんらしいね。……その誠実さがあるから、凪ちゃんも千尋ちゃんも、こうして傍にいるんだよ」


香織は、昨日の自分の告白を思い出しながら、穏やかな表情で言葉を続けた。


「これから仲良くしてくれたら、すごく嬉しい。……ただ一つだけ、お願いがあるの。私に変に気を遣ったりしないでね。湊くんのおかげで気持ちに区切りをつけることができたから。わがままばかりで本当に申し訳ないなって思ってるんだけど、これからは本当にただの『友達』として。それが私の、今の唯一の望みだから」


香織の眼差しは澄んでいた。昨日までその瞳に宿っていた、独占欲や焦燥感はもうどこにもない。それは、自分の抱えていた熱情を、自分自身の手で正しく終わらせた者だけが持てる、静かな誇りのようだった。

凪が、その言葉を聞いてぱぁっと表情を輝かせる。


「うん! もちろん。じゃあ、香織さんって呼ぶのも、なんかちょっと遠い感じがしちゃうね。……香織ちゃんって呼んでもいい?」


「……香織ちゃん?」


「そう! 私のことは『凪』って呼んで。これからはもっと気軽にね」


香織は一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに嬉しそうに目尻を下げた。


「……うん、いいよ。凪、それなら私も……凪って呼ぶね」


「わぁ、やった!」


凪が嬉しそうに香織の手を引く。その無邪気さに、香織もまた、自分の心が軽くなるのを感じた。湊は二人のやり取りを見ながら、ふと屋上のフェンスに目を移した。そこには、過去の自分が一人で抱えていた孤独の欠片が、まだ少しだけ残っているような気がした。けれど、隣に凪がいる。そして、前に香織と千尋がいる。その事実は、どんな景色よりも鮮やかに、湊の視界を塗り替えていた。


「湊、いつまでぼーっとしてるの?……ほら、カフェ行くよ。今日は湊の奢りだからね」


千尋が湊の背中を突っつくと、湊は照れ隠しに頭をかいた。


「ああ、わかったよ。……じゃあ、行こうか」


「うん! 今日は美味しいケーキを食べようね!」


カフェへの道すがら、四人はとりとめのない会話を重ねた。学校での流行りの話、次に控えているテストのこと、千尋のバイトの話。昨日までなら、湊にとってそれらは凪以外との「不要なノイズ」に過ぎなかったかもしれない。けれど、香織を交えた会話の中に混ざると、それらはとても人間らしく、温かい響きを帯びていた。

カフェに入ると、店内の心地よいBGMが彼らを包み込んだ。


しばらくは他愛のない雑談が続いたが、ふと凪が落ち着いたトーンで香織を見つめた。


「ねえ、香織ちゃん」


「ん? 何かな、凪」


「……昨日のことなんだけど。香織ちゃんがずっと、図書室で湊ってどんな感じだったの? ……もし、失礼じゃなかったら教えてほしいな」


香織はティーカップを持つ指を止め、少しだけ遠くを見つめた。凪の質問には、好奇心だけでなく、香織の心にも寄り添おうとする繊細な配慮があった。香織は、その凪の誠実さに甘えるように、ゆっくりと言葉を選んだ。


「そうね……。人とあまり関わろうとしない孤高な存在だったかな。最初は、ただの憧れだったんだと思う。まるで綺麗なガラス細工みたいだなって。気になってたけど声をかけることはできなかった」


「そこまで声をかけにくかったってこと?」


「ううん。私は湊くんとの関係が変わるのが怖かったの。関わりはなかったけど湊くんのことを見ていることが私の楽しみだったから」


香織は自嘲気味に笑った。


「でも本当は、関係を壊したくないからと理由をつけて、私は『臆病な自分』を正当化していたのかもしれない」


湊はその言葉を聞き、胸の奥が締め付けられるような痛みを感じた。彼自身もまた、孤独を盾にして凪を失った痛みから逃げていたからだ。


「香織ちゃん……教えてくれてありがとう」


凪はそっと香織の手の上に自分の手を重ねた。


「私にこういうことを言う資格はないかもしれないけど……これからは、その寂しさを一人で抱え込まないでね。私たちがいるから」


香織の瞳が、ふと潤んだ。


「凪……。私、本当に、この二人と出会えてよかった」


千尋は、そんな二人のやり取りを微笑ましく見守りながら、少しだけ雰囲気を変えようと口を開いた。


「はいはい、しんみりするのはそこまで! 香織ちゃんもせっかく吹っ切れたんだから、これからは楽しい話をしよ。そうだ、男抜きの女子会で思いっきり羽伸ばそうよ。……ね、凪、香織ちゃん。今度の休み、丸一日空いてる?」


凪はパッと目を輝かせ、隣に座る香織の手を自然と握った。


「香織ちゃんは行きたいところとかある?」


香織は少しだけ意外そうに目を見開いたあと、ふわりと柔らかい笑みを浮かべた。


「私でいいの? ……すごく嬉しい。ずっと気になっていた雑貨屋さんがあるんだけど、そこに行ってみない?」


「雑貨屋さん! いいね、最高! 香織ちゃん絶対センスいいもん。私、何を買えばいいかいつも迷っちゃうから、一緒に選んでほしいな」


「ふふ、じゃあ私がとびきり可愛いものを一緒に探してあげる。……あ、でも凪の好みも知りたいから、お互いに選びっこしようよ」


香織の提案に、凪は嬉しそうに頷く。二人の間に流れる空気が、驚くほど軽やかで楽しそうだ。そんな二人の様子に、千尋は満足げに腕を組んだ。


「決まりだね。じゃあ、ランチは私のとっておきの店に連れて行ってあげる。並ぶけど、食べる価値ありのパンケーキがあるんだ。その後はまたショッピングして、夕方からカフェで語り明かす。どう?」


「完璧だね」


湊は、凪の本当に嬉しそうな顔を見て、自然と口元が緩んだ。凪が自分以外の友人と、こうして純粋に心を通わせている。その姿を見ることが、今の湊には何よりも喜ばしかった。

三人の笑い声がカフェの穏やかな空気に混ざり、新しい友情の輪が鮮やかに広がっていく。


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