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第三章連載中 元義妹は元義兄と暮らしたい〜他人になったはずの元義妹と再会したら学校でも猛アタックしてきて困ってます〜  作者:
2人の時間

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放課後の熱

放課後の教室。カーテンが風に揺れ、夏が近づいて陽が伸びてきたせいかまだ暗くなるまで時間がある。この後二人で遊ぶ時間を十分確保できるだろう。湊と凪は二人で放課後の準備を整えていた。


「よし、終わったな。帰ろうか、凪」

「うん、帰ろ。……あ、待って、みーくん。私の教科書、まだ机の中だ」


凪が少しだけ慌てて自分のデスクを覗き込む。湊は凪の準備が終わるのを待つ間、自分のバッグを肩にかけ、凪の隣で静かに彼女の動きを目で追っていた。


「よいしょ、っと……。ふぅ、やっと終わったぁ。……ねえ、みーくん、今日、アイス屋さん行こう」

「いいな。その後買い物でもいくか。……凪、あまり急ぐなよ、転ぶぞ」

「楽しみだからね。 それに転びそうになったらみーくんが支えてくれるでしょ?」


凪が嬉しそうに湊の腕に抱きつく。教室にはまだポツポツと他の生徒も残っており、二人のその仲睦まじい様子を、チラチラと横目で見る者たちがいた。湊はそれには一切構わず、凪のバッグを持ってあげようと手を差し出す。


「貸せ。俺が持つ」

「えへへ、ありがとう。……優しいなぁ、みーくんは」


その時だった。湊たちのすぐ近くで、鞄を詰め終えた女子生徒が、勇気を振り絞るように声をかけてきた。


「あ、あの……湊くん? 明日って時間ある?」

「ん? ……何かあったか?」


湊は凪の腕を組んだまま、至極当然のように対応する。凪は一瞬だけ表情を強張らせたが、すぐに湊の隣で穏やかな「凪ちゃん」の顔を作る。


「その……昨日教えてもらった英語の長文、別の問題集でも似たようなのがあって。もしよかったら……」

「明日か……ああ、いいぞ。昼休みなら空いているから、それでいいなら」

「本当!? ありがとう、湊くん! じゃあ、明日またノート持っていくね!」


女子生徒は顔を輝かせて教室を出て行った。彼女には邪な意図などない。ただ、純粋に「勉強を教えてほしい」というだけの頼み事だ。湊にとっても、それはクラスで円滑に過ごすための「必要経費」に過ぎない。


教室が少し静かになる。凪は、湊の手を握りしめ、少しだけその指に力を込めた。


「……明日、昼休みも教えるんだね」

「ああ。……凪、嫌か?」

「嫌じゃないよ。……みーくんがみんなに頼りにされるの、嬉しいもん」


凪はそう言いながら、湊を見上げて小さく微笑んだ。心の中のざわめきを、彼女は懸命に飲み込む。湊が自分以外の誰かに優しくしている。その事実が、喉元まで何かを押し上げそうになるが、凪はそれを「愛」という名の膜で覆い隠した。


「そうか。……凪がそう言ってくれると助かる。俺一人じゃ、クラスの空気を読むのは難しくてな。こうやって普通に接することで、凪が変な噂を立てられるのを防げるしな」

「……うん。分かってるよ。みーくんは、私を守るために頑張ってくれてるんだよね」


凪は湊の腕に顔を埋め、彼の匂いを深く吸い込んだ。香水の匂いではない。湊自身の、少しだけ甘くて、どこか懐かしい匂い。


「……みーくん、私、もっと甘えてもいい?」

「……場所を考えろ。……と言いたいところだが」

「ふふ、冷たいこと言わないでよ」


二人は教室を出て、誰もいない静かな廊下を歩き始めた。放課後の校舎は、夕暮れに染まり、少しだけ影が長くなっている。


「ねえ、みーくん」

「なんだ?」

「さっきの女の子、すごく嬉しそうだったね」

「そうか? ……よく見てなかった」

「もう、……そういうところだよ、みーくんは」


凪は少しだけ拗ねたように唇を尖らせたが、その手は湊の腕を離さない。彼女にとって、湊が無関心であることは、何よりも甘美な報酬だ。


「……そんなことよりこの後どこいくか考えよう」

「あ、うん! そうだね! まずはアイスだね……ねえ、みーくんは何にする? どんな味にしようかな……」

「決められなければ二人で分け合えばいいだろ」


湊の言葉に、凪の顔がパッと華やぐ。


「……みーくん、大好き。……本当に、一生離さないからね」

「ああ。俺も、お前以外には何もいらない」


二人は校舎の出口を抜けた。校門へと続く並木道は、夕日に照らされて黄金色に輝いている。


「ねえ、みーくん。もし、私が嫉妬深くなって、みーくんをどこにも行かせたくなくなっちゃったら、どうする?」

「……まず俺は凪以外のところに行きたくないぞ」


湊の言葉は、まるで凪の独占欲を肯定するかのような、重く、甘い言葉だった。彼は自分の自由を凪という花に預けている。それは、彼にとって束縛ではなく、至高の幸福なのだ。


「……そんなこと言ったら、本当に私、みーくんを檻に入れちゃうよ?」

「……やってみればいい。……お前の檻なら、俺は進んで入るよ。それにそんなご褒美、檻じゃなくて豪邸だろう」


二人は顔を見合わせ、静かに笑った。

校門を出て、二人の影が並んで伸びる。通り過ぎる車、遠くで聞こえる帰宅部の声。その全てが、二人にとっては遠い世界の出来事のようだ。


「……ねえ、明日の昼休みもさ、私が一緒にいてもいい?」

「もちろん。……むしろ、一緒にいたい」

「ふふっ、今の言葉、録音しておけばよかった!」


凪は湊の袖を強く引いた。彼を自分の世界に閉じ込めておきたいという強烈な欲求と、彼が自分を一番に求めているという絶対的な信頼。その二つが、今の凪の中で完璧な調和を保っている。


「ねえ、みーくん。……今日たくさん甘えさせてね」

「ああ。……好きにしてくれ」

「今からでもいい?」

「……帰ってからにしてくれ」

「ふふ ……いいよ、それじゃあ、帰ったらたっぷり甘えさせてもらうんだからね!」


二人は他愛のない会話をしながら、街へと続く道を歩いていく。

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