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第三章連載中 元義妹は元義兄と暮らしたい〜他人になったはずの元義妹と再会したら学校でも猛アタックしてきて困ってます〜  作者:
2人の時間

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不穏な影

火曜の朝。校門から続く並木道を、湊と凪が並んで歩いてくる。

 二人の歩調は以前よりも少しだけ緩やかで、他愛ない会話の内容も「幼馴染」のそれとはどこか質が違っていた。同じ屋根の下で目覚め、朝食の香りを共に楽しみ、何気ない言葉を交わして支度をした。そんな「日常」が、楽しいと思えた。


「おい、また湊かよ。なんか最近、あいつ凪とばっかいるな」

「別に目立たない地味な奴だろ。成績がいいだけのガリ勉に、凪が何であんなに付き合ってやってるんだか」


 校舎の廊下ですれ違う際、男子生徒たちのそんな辛辣な声が耳をかすめる。以前の湊は、その鋭い頭脳と近寄りがたい雰囲気から、男子たちからも「関わらないほうが無難な存在」として、ある種の敬意に近い視線を向けられていた。しかし、凪との距離が縮まり、彼女と親しげに笑い合う姿が目撃されるようになると、その評価は一変した。


「凪にはもっと相応しい奴がいるだろうに。湊とか、全然面白みがないよな。ただのラッキーボーイかよ」


 嫉妬と苛立ちが混じり合った陰口が、毒のように蔓延していく。湊はそれに気づいていながらも、凪との穏やかな時間に水を差す価値すらないと、静かに視線を凪へと戻した。彼にとって世界は、凪の微笑みと、それ以外の雑音で構成されているに過ぎなかった。


 教室に入ると、空気がわずかにざわめいた。湊が自分の席につき、一拍置いて後ろの席に凪が座る。その動作の端々から漂う「共通のリズム」が、女子生徒たちのアンテナを激しく刺激していた。


「ねえ、湊くん、今日もおはよう。また凪ちゃんと一緒に来たの?」


 クラスメイトの月島サキが、興味津々といった様子で湊の机に寄りかかる。湊は教科書を広げながら、ごく自然に振り返った。


「ああ。家が近いしな。たまたまだよ」

「たまたまって……ここ一週間、ずっと一緒じゃない? さすがにそれは『たまたま』って無理があるよー」


 サキの追及に、湊は「そうだったか?」と軽くかわす。以前なら突き放すような言葉で終わらせていたが、今の湊には周囲の詮索を笑って受け流す余裕があった。だが、その穏やかな余裕こそが、かえって彼らの関係を疑わせる決定的な証拠となっていた。サキは「なんか、前より余裕あるよね」と小さく呟き、満足げに自分の席へと戻っていった。


 凪の席の周りには、朝から女子たちが群がっている。アイドル的存在である凪の動向は、このクラスにとって最大の関心事だった。


「ねえ凪ちゃん、湊くんとの関係、ホントのところどうなの? ……最近さ、湊くんの視線、ずっと凪ちゃんに向いてるよね? 凪ちゃんのことしか見てない感じ」


 凪は教科書に視線を落としながら、クスクスと笑った。彼女は自分の周りに集まる視線を、まるで心地よい風のように楽しんでいる。


「秘密。……でも、みーくんといると、すごく心が落ち着くのは確かかな」


 凪が湊の方をちらりと見て、悪戯っぽく微笑む。そのあざといまでの態度は、興味津々な女子たちには格好の娯楽であり、同時に、湊を低く評価する男子たちには、「あんなインキャ」が凪に夢中であることへの苛立ちを募らせる材料となっていた。

 教室の後ろのほうでは、男子たちが「凪ちゃん、あいつに洗脳されてるんじゃないか?」と、的外れな心配を装った愚痴をこぼしている。彼らにとって、湊の存在は「凪の隣に居座る不届き者」であり、その座を奪いたいという欲望が、静かな反感となって教室を満たしていた。


 授業が始まり、湊が後ろの凪にプリントを回す際、二人の指先がほんの一瞬、重ねられた。それは、周囲から見れば「プリントを渡す」という事務的な動作に過ぎない。しかし、湊は凪の指をわずかに強めに握り、凪はそれに応えるように指先をかすめた。


 その微細なやり取りを、近くで見ていた千尋がすかさず見咎める。彼女は二人の変化を最も早くから見守っていた親友であり、その鋭い観察眼は隠しきれない愛情を捉えて離さない。







休み時間、千尋は湊の席に近づいてきた。


「……さっき、指、触れてたよね?」


 千尋の小声での指摘に、湊は涼しい顔で「勘違いだろ」と返した。だが、耳までわずかに赤く染まっているのが、隠しきれていない証拠だった。

 湊は、ノートを渡すふりをして凪の手の甲を、自分の手でそっと包んだ。それは、周囲の視線から遮断された一瞬の、二人だけの誓いのようなものだった。


 涼や千尋には「仲のいい幼馴染の談笑」に見えているが、男子たちにとっては「あいつ、凪を独占して何様だよ」という反感の種を蒔く行為でしかなかった。湊がどれほど凪を大切に思おうと、彼の評価は「凪に近づく地味な奴」というレッテルから一向に変わらない。彼らは湊の内に秘められた情熱や、凪との深い絆を知らない。


「なんであいつなんかと」「勉強できるだけのインキャなのに」

「なんか弱みでも握られてるんじゃないのか」


そんな声が教室のどこからか聞こえてきた。




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