表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第三章連載中 元義妹は元義兄と暮らしたい〜他人になったはずの元義妹と再会したら学校でも猛アタックしてきて困ってます〜  作者:
2人の時間

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/84

相談③


 喫茶店『アンバー』の奥、仄暗い照明が四人の影を濃く落とす。コーヒーの香りが漂う中で、先ほどまでの「学校での作戦会議」という緊張感は、涼と千尋による容赦のない「尋問」へと姿を変えていた。


 涼がふっと息を吐き、コーヒーカップをソーサーに置く。彼の眼差しは、先ほどまでの陽気な親友のものとは違い、チェスの盤面を読み解く戦略家のように鋭く、そしてどこか冷徹だった。


「なあ湊、凪。俺たちに隠し事はなしだぞ。お前らが中学に上がる直前、親の離婚で引き裂かれるまで、どれだけ互いを想い合って……そしてどれだけ耐えてきたか。千尋から聞いた時、正直背筋が凍ったぜ。義兄妹として愛するのか、女として愛するのか、その境界線で死ぬほど苦しんだんだろ?」


 その言葉に、湊の肩がわずかに強張る。涼の声には責めるような響きはなく、ただ二人の過去という「劇薬」に対する純粋な畏怖が混じっていた。千尋は遠くを見るような目で、凪の横顔を見つめた。中学時代、千尋と出会い、親しくなるにつれてぽつりとこぼした「ずっと好きだったお兄ちゃんが、いなくなっちゃった」というあの日の告白。千尋は、その凪の痛みを誰よりも近くで見てきた。湊が中学時代、凪の存在を失った恐怖から、誰とも深く関わらない孤独な殻に閉じこもっていたことも、千尋は知っていた。


「……あの日々、俺たちはただの『家族』を演じることに必死だった」


 湊の声は低く、枯れたような響きを持っていた。彼にとって、その過去は今なお、喉に突き刺さったままの棘のようなものだ。


「義兄妹という名の呪縛で、俺たちは互いを一番近くで愛しながら、決して触れてはいけないものとして隠し続けた。中学に上がる前に親が離婚して引き裂かれて……俺は、好きな人が離れるのが怖くて、それ以来、誰とも深く仲良くすることをやめたんだ。凪がいない世界なんて、死んでるのと変わらなかった。お前と出会った中学時代も、涼、俺は心の一部をずっと欠損させたまま生きていたんだよ」


 それを受け止めるように、凪が湊の肩に身を預ける。彼女の体温が湊に伝わる。かつては触れることさえ許されなかった距離感が、今やこうして密着していることに、彼女は狂おしいほどの歓喜を覚えているようだった。


「私はね、中学で千尋ちゃんと出会って、初めて言えたの。『ずっと大好きだったお兄ちゃんが、いなくなっちゃった』って……。離れている間、ずっと寂しかった。でも、高校入学で再会した瞬間、心臓が爆発するかと思った。もう絶対、この手は離さないって決めたの」


 凪の口調には、かつての慎ましさは微塵もない。彼女の手が、湊の背中を愛おしそうに、そして独占欲たっぷりに這い回る。再会した瞬間、彼女が迷わず「同居」を切り出し、湊がそれに抗えなかった理由。それはお互いの心に空いた穴が、あまりに巨大すぎたからに他ならない。


「お前が湊の部屋に強引に転がり込んだわけだ」


と涼が笑う。


涼がからかうように笑うと、凪は羞恥に顔を赤らめながらも、湊の腕にさらに深く顔を埋めた。


「そう。だって、再会した時、みーくんがあの時の……寂しそうな、壊れそうな顔をしてたから。私の全部をぶつけて、あの長かった空白を埋めてほしかったの。ねえ、昨日の夜だって……」


凪が言葉を濁し、わずかに視線を逸らす。その表情には、ただの幼馴染とは呼べない、互いを溺愛する者特有の火照りが残っていた。千尋はそれを見逃さず、ニヤリと目を細める。


「で? 熱が下がってからの看病……ただの看病じゃなかったんでしょ? 凪ちゃん、湊くんを離さなかったんでしょ?」


「っ、ちひろちゃん、そんな……!」


凪が真っ赤になって湊の胸元に顔を隠す。湊も少しだけ居心地悪そうに視線を逸らしたが、凪を抱く手には力がこもったままだ。


「……俺は、ただ傍にいたかっただけだ。凪が少しでも動こうとすると、また俺の前から消えてしまうんじゃないかって、不安で……。結局、朝までずっと手を握っていた」


「へえ、湊くんがねえ。あのクールで無愛想な湊くんが、不安で?」


千尋が嬉しそうに冷やかすと、凪がバツが悪そうに、でもどこか誇らしげに付け加える。


「……朝、目が覚めた時、みーくんが私の額に何度も、何度もキスしてて……。私が目を覚ましたことに気づいたら、ものすごく恥ずかしそうに逸らしたの。あんなみーくん、今まで見たことなかったから……その、すごく嬉しくて、また私から抱きついちゃって……」


凪の可愛らしい告白に、涼と千尋は目を見合わせる。


「……うわあ、それはまた初々しいね。兄妹だった頃には見られなかった、本当の意味での『恋人』の顔だ」

「本当ね。湊くん、凪ちゃんのこと、大事にしすぎ。ねえ、そんなに凪ちゃんのことが可愛いの?」


湊はため息をつきつつも、凪の頭を優しく撫でた。


「……可愛いに決まっているだろう。凪が俺の隣にいて、俺の名前を呼んでくれる。それだけで、中学時代に死んでいた俺の時間が、ようやく動き出したんだから」


その率直な言葉に、凪はとろけるような笑顔を見せ、湊の指先をそっと自分の指で絡めた。かつては血の繋がりという呪縛に苦しみ、離れ離れになって地獄を見た二人が、今こうして親友の前で堂々と想いを語り合っている。


「……幸せだよね。こうして、二人の過去も、今のこの気持ちも、全部知ってくれている千尋ちゃんたちがいてくれて」


凪の真っ直ぐな言葉に、千尋は満足そうに微笑んだ。四人の共犯関係は、過去の痛みを知るからこそ、誰よりも強固に結ばれている。夜の街の冷たさも、今の二人には、過去を乗り越えた先にある温かい余韻として感じられていた。


「よし、尋問はここまでだ」


涼が立ち上がり、会計の伝票を手に取る。


「お前ら、来週の学校は演劇の開演日だぞ。観客はクラス全員だ。最高の演技を期待してるぜ」


湊は凪を立ち上がらせ、彼女の肩をしっかりと抱き寄せた。店を出ると、冷たい夜風が二人の火照った頬を撫でる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ