# 第99話 同意の確認
シロは処刑台の床下から、細い菌糸を伸ばした。
エレナの足元へ。
白い炎はもう薪の外側を舐めている。普通なら、助けるかどうか迷っている時間はない。
だがマティアスの言葉が残っていた。
救済に同意がないなら、それは救済ではない。
正しい。
面倒で、遅くて、命取りになりそうな正しさだ。
それでも、ここで無視したら教会と同じになる。
菌糸がエレナの足首へ触れた。
声ではない。
匂いでもない。
体温と脈と、薄い魔力の震えを通して、シロは短く伝えた。
助けたい。
逃げる意思はあるか。
エレナの体が、ほんの少しだけ震えた。
驚き。
恐怖。
それから、祈りに似た静けさ。
彼女は唇を動かした。
広場の誰にも聞こえないほど小さく。
「病人を、置いては行けません」
シロは一瞬、困った。
そこか。
自分の命ではなく、病人か。
聖女という肩書きは、伊達ではないらしい。
菌糸を通じて、シロは返す。
助けた後、治療する。
約束する。
エレナの手が、縛られたまま胸の前で少し動いた。
祈りの形。
「なら、お願いします」
同意は取れた。
その瞬間、シロは地下の菌糸を一斉に動かした。
処刑台の脚を腐らせるのではない。
薪の内側だけを湿らせる。
聖火の管へ白い菌糸を入れ、熱を吸う。
床板の隙間から、白い胞子を薄く上げる。
火は消えない。
消せば奇跡が目立ちすぎる。
弱らせる。
燃えているように見せて、焼けないようにする。
シロは汗をかかない。
それでも、手のひらが湿るような錯覚があった。
人を助けるのに、ここまで手順がいる。
ただの善意では足りない。
許可。
同意。
タイミング。
証拠隠し。
全部が必要だった。
火の白さが、一瞬だけ鈍った。
エレナがこちらを見た。
地下にいるはずのシロを、見た気がした。




