# 第96話 白火広場
白火広場は、祭りの準備のようだった。
屋台が出ている。
祈祷札が売られている。
聖火を模した小さな蝋燭を、子どもが握っている。
中央には処刑台。
その周りに乾いた薪が積まれていた。
シロは人混みの端からそれを見た。
胸の奥がざらつく。
人を焼く場所なのに、パンが売られている。水売りが声を上げ、巡礼者が場所取りをしている。
ブラック企業の全体朝礼を思い出した。
誰かが吊るし上げられる日でも、他の社員は弁当を食べる。嫌なものでも、慣れると行事になる。
広場の壇上に、金糸の白法衣を着た男が上がった。
太い指輪。聖火炉の熱で赤い頬。
枢機卿バルテロ。
モルデが耳元で囁く。
「上層部の一人。処刑の決裁者」
「決裁者」
嫌な言葉だった。
人を焼くことにも、決裁がある。
バルテロは両手を広げた。
「病を憎め。穢れを憎め。異形を憎め。白き火だけが、我らを清く保つ」
民衆が唱和する。
中には本気で祈る者もいる。病で家族を失った人間にとって、火は敵ではなく救いだった。
そこを馬鹿にしてはいけない。
シロはそう思った。
ただ、処刑台の薪を見て、拳を握る。
手袋の下で、爪の隙間から細い菌糸が出かけた。
「地下へ」
モルデが言う。
マティアスの地図では、広場の下に古い排水路がある。昔、聖火炉を冷やす水を流すために作られたものだ。
ゲームにも似た道があった。
聖女救出ルート。
ただし正面の聖騎士を倒すのではなく、下から結界の根を切る。
今回、シロは剣では勝たない。
処刑そのものを、燃えにくくする。
広場の下へ潜る前、シロはもう一度だけ上を見た。
白い火の国は、まぶしい。
まぶしすぎて、焼かれる人の顔が見えにくい。




