# 第87話 火の噂
リムワードの酒場では、白い森を焼けば金になるという噂が流れていた。
「燃えたキノコから白い宝石が出る」
「帝国が高く買う」
「火をつけた奴には褒美が出る」
どれも嘘だ。
だが、火を持つ理由としては十分だった。
モルデが噂の出所を三つ拾った。ジルバの敵対商人。レオンに近い兵。薬の偽物を売れなくなった小悪党。
分かりやすい。
分かりやすいが、面倒だ。
「火を使われたら、こちらが増えますよね」
ニコが言った。
「森ならね」
シロは答える。
「街では違う。家が燃える。人が死ぬ。僕だけ回復しても意味がない」
ここは何度でも説明する必要がある。
火属性ダメージは、本来ならキノコ系に大ダメージだ。
だが主人公の職はエイプリルフール限定のネタ職で、内部計算がバグっている。引かれるはずの火ダメージが、回復と増殖に足される。
つまり、シロだけなら火は餌になる。
でも周りの人間、木の家、薬棚、パン屋は燃える。
自分が強いことと、街が助かることは別だ。
ニコは真面目に頷いた。
「じゃあ火事はだめですね」
「だめ」
それを聞いていた清掃班の男が、隣の者へ同じ説明をした。
「白い旦那は燃えても平気。でも俺らは焼ける。だからだめだ」
少し雑だが、伝わっている。
シロはそれでよしとした。
夜、放火犯は診療所裏へ来た。
油壺を持った男が二人。顔を布で隠しているが、手が震えている。金で雇われた素人だ。
火打ち石を出した瞬間、モルデが背後に立った。
「やめておけ」
二人は腰を抜かした。
シロは油壺を拾う。
「火をつけるなら、まず説明を聞いてください」
「な、何を」
「僕は燃えると増えます。でもこの街は燃えると死にます」
放火犯は意味が分からない顔をした。
シロも、言っていて少し変だと思った。
だが事実だ。
モルデが二人の雇い主を聞き出した。殴らなかった。短剣を見せただけで十分だった。
翌朝、ユーリスの報告書に一文が足された。
白い森関係施設への火気使用、都市火災リスク大。
人食いなし。
火事もなし。
報酬は、火の噂を逆に封じる行政文書だった。




