# 第86話 清掃班の木札
白い森清掃班の木札は、思ったより人気が出た。
理由は簡単だ。
日払い。
飯付き。
病人は診療所へ回せる。
この三つだけで、貧民街では十分すぎた。
ユーリスは木札の束を見て、頭を抱えた。
「増やすなと言った」
「側溝清掃に人手が必要です」
「必要なのは分かる。分かるから困る」
彼の机には、下水の苦情票が減った代わりに、雇用申請の紙が増えていた。
仕事は減らない。
形を変えて増える。
シロは前世の部署異動を思い出した。改善提案を出したら、新しい管理表を作る係にされたことがある。
「申請のひな形を作ります」
「お前ら、俺を助けてるのか増やしてるのか分からないな」
「両方です」
「正直に言うな」
ユーリスは疲れた顔で笑った。
清掃班は、白い布を腕に巻いた。
制服というほどではない。だが目印になる。昨日までジルバの倉庫で名簿にも載らなかった男たちが、今日はユーリスの帳面に番号付きで書かれている。
番号七十二番の男は、妹のために保存キノコを二つ受け取った。
その顔を見て、シロは少し安心した。
仕事を作った。
飯も渡した。
下水もきれいになる。
分かりやすい報酬だ。
だがモルデが横で言った。
「腕の白布は、支配の印にもなる」
シロは白布を見た。
確かに、街の人間は清掃班を見分ける。
白い森の仕事をしている者。
白い森の飯を食う者。
白い森の薬を使える者。
助けられた人間に、印がつく。
「別の色にしますか」
「色の問題じゃない」
モルデは短く言った。
分かっている。
でも、印がないと管理できない。
管理できないと、薬も飯も横流しされる。
シロは木札を一枚、指でなぞった。
救済は、名簿を必要とする。
名簿は、人を番号にする。
清掃班はその日、診療所裏から二本目の側溝へ進んだ。
街は少しきれいになった。
白い印も、少し増えた。




