# 第84話 ジルバの倉庫
ジルバの倉庫には、税を払っていない物が山ほどあった。
塩袋。古い剣。破れた毛布。安酒の樽。名札のない薬瓶。
そして、人。
夜の荷運びを待つ男たちが、壁際に座っている。靴底は薄く、手には古い傷がある。
「未登録労働者だ」
ジルバは悪びれずに言った。
「登録すると税がかかる。税がかかると雇えない。雇えないとこいつらは飢える。俺は悪人か?」
シロは答えに迷った。
悪人ではある。
だが必要な穴でもある。
会社のサービス残業みたいだ。違法だが、それで回っている現場がある。だからといって正しくはない。
「仕組みが悪い」
シロが言うと、ジルバは笑った。
「そう言う奴は、だいたい新しい仕組みで俺を潰す」
「潰すかは未定です」
「正直で怖いな」
モルデが影から口を挟む。
「ジルバは偽物の薬を流している」
倉庫の空気が変わった。
ジルバの銀の指輪が止まる。
「証拠は」
モルデは棚の奥から薬瓶を一つ取った。白い粉。ラベルは咳止め胞子に似せてある。
シロは匂いを拾った。
小麦粉と眠り草。
効かない。多く飲めば腹を壊す。
「これはだめです」
シロの声が思ったより低くなった。
ジルバが肩をすくめる。
「俺じゃない。下の者が」
「その言い方は上司みたいで嫌いです」
シロは本気で嫌だった。
責任を下へ落とす言葉。
それで何度も胃が痛くなった。
「回収してください。代わりに本物を卸します。値段は下げます。ただし記録を出す。誰に売ったか」
「客を売れと?」
「偽物で死ぬ客を減らすためです」
ジルバは笑わなかった。
モルデの短剣が、いつの間にか彼の背中側にある。
「断れば?」
「サーラに渡します。ユーリスにも。あなたの倉庫札も」
ジルバはしばらく黙り、やがて両手を上げた。
「分かった。白い森とは揉めない」
勝った気はしなかった。
だが偽物の薬は消える。
報酬は、裏倉庫の名簿と、ジルバの笑顔が少し固くなったことだった。




