# 第83話 試験清掃
診療所裏の側溝は、見た目より深かった。
木の板を外すと、黒い泥がぶくりと泡を立てる。サーラが顔をしかめ、ユーリスは報告書を押さえながら一歩下がった。
「ここを三日で?」
「半日で終わります」
シロが言うと、ユーリスの羽ペンが止まった。
「半日と書くと、上が次から全部半日でやれと言う」
「では三日予定で、初日は調査」
「分かってるじゃないか」
嫌な知恵が増えていく。
シロは側溝に白い菌糸を伸ばした。
汚泥に触れる。布を避ける。硬貨を残す。釘を残す。腐った野菜と糞尿と油を、ゆっくり分解する。
見た目は地味だ。
怪物の大技ではない。
白い糸が泥を抱え、黒い水が少しずつ澄んでいくだけ。
だが周りの住民は、息を止めて見ていた。
「臭いが減った」
誰かが言う。
別の老人が、疑うように鼻を動かす。
「本当だ」
サーラは寝台の布を洗う桶を見た。
「これで熱が減るなら、薬より助かる患者もいる」
医師の言葉は重い。
ユーリスは報告書に書いた。
悪臭、やや低下。
流れ、改善。
人食い、なし。
「そこ、毎回書くんですか」
「毎回書く。上はそこしか読まない」
シロは納得してしまった。
重要なことは二度三度書く。人は読まない。特に忙しい上司は読まない。
菌糸は側溝の奥へ伸びた。
そこでシロは、地下に古い空洞を見つけた。石で組まれた通路。今は誰も使っていない。だが都市の中心へ向かっている。
ゲームで見た地下水路に似ていた。
シロは広げたい衝動を抑えた。
今は試験。
許可は診療所裏だけ。
勝手に広げれば、救済ではなく侵入になる。
だが菌糸は、空洞の入口に白い点を残した。
地図にピンを立てるように。
試験清掃は成功した。
報酬は、悪臭の消えた側溝と、都市地下への入口だった。




