# 第81話 文官ユーリス
ユーリスの机には、苦情票が三つの山になっていた。
下水。
パン。
病気。
どれも字が荒い。怒っている人間の字だ。中には血の跡がついた紙もある。
「で、白い森は下水も食うのか」
ユーリスは眠そうな目で言った。
「食うというより、分解します」
「同じだろ」
「少し違います」
「現場では同じだ。詰まりが消えればいい」
シロは反論を飲み込んだ。
この男は説明を聞く時間がない。偏差値ではなく、残業で頭が死んでいる。
だから具体例がいる。
「詰まった布、腐った食べ物、汚れた泥を、菌糸が細かくして土に戻します。石や金属は残ります。人は食べません」
ユーリスは羽ペンを止めた。
「人は食べません、と書く日が来るとは思わなかった」
「大事なので」
「大事だな」
少しだけ笑いかけて、すぐ真顔に戻る。
「許可は出せない」
マルクが眉を上げた。
「なぜです」
「俺に権限がない」
またそれか、とシロは思った。
権限がない。
上が決める。
現場は困っているのに、判子がないから動けない。
前世の会議室が頭をよぎり、少し腹が立った。
「では、試験清掃なら?」
ユーリスの目が動く。
「試験」
「診療所裏の側溝一つだけ。人が入るには危ない場所です。白い森が無償で清掃。結果をユーリスさんが報告書にする」
「俺の仕事が増える」
「苦情票は減ります」
ユーリスは黙った。
苦情票の山を見る。
下水の山が、一番高い。
「報告書のひな形は」
「作ります」
マルクが即答した。
ユーリスは深く息を吐いた。
「試験。診療所裏。三日。範囲外に広げるな。火を使うな。変なキノコを生やすな。人を食うな」
「人は食べません」
「二回言ったな。報告書にも二回書く」
そのほうがいい。
読んだ上司が一度で理解するとは限らない。
シロは頷いた。
白い森は、剣ではなく試験清掃許可で都市へ深く入った。




