表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
77/100

# 第77話 夜の紹介状



 夜になると、リムワードは別の顔になった。


 昼の商会通りは店を閉め、代わりに裏路地の灯りが増える。荷車の車輪には布が巻かれ、音を消して進んでいた。


 マルクは丸眼鏡を外し、胸ポケットへしまった。


「ここから先は、商人の顔だけでは足りません」


「裏の顔ですか」


「ええ。できれば使いたくない顔です」


 そう言いながら、マルクは慣れた足取りで路地へ入った。


 シロは少し感心した。人間社会の商人は、菌糸より複雑な道を持っている。


 奥の倉庫に、銀の指輪をはめた男がいた。


 香水の匂いが強い。だが菌糸が下から拾う匂いは、下水と古い血だ。


「マルク。白い森を連れてくるとは、ずいぶん出世したな」


 男は笑う前に歯を見せた。


「ジルバです。倉庫、夜道、人手、黙って運ぶ荷。そのあたりを扱います」


 マルクが紹介する。


 ジルバはシロを値踏みした。


「白い森の代表は、もっと化け物かと思った」


「助手です」


「皆そう言う」


 ジルバは指輪で机を叩いた。


「薬を売りたいなら、表の診療所だけじゃ遅い。貧民街には登録されていない患者がいる。税も払えない、名前もない、死んでも帳面に載らない連中だ」


 嫌な言い方だ。


 だが事実でもある。


「紹介料は」


 シロが聞く。


 ジルバは笑った。


「話が早い。売上の三割」


「高い」


「安全代だ」


「安全はどこまで含みますか」


 ジルバの笑いが止まった。


「面白い聞き方だな」


「患者に薬が届く。医師が脅されない。荷が盗まれない。偽物を売らない。そこまでなら払えます」


「払えます、か」


 ジルバは椅子にもたれた。


「弱そうな顔で、ずいぶん上から来る」


 シロは困った。


 上から来たつもりはない。


 ただ、条件を整理しただけだ。


 会社の契約書で、曖昧な「安全」を飲むと後で全部こちらの責任になる。それだけは嫌だった。


 倉庫の梁で、小さな影が動いた。


 シロの菌糸がまだ届いていない場所。


 誰かが聞いている。


 ジルバも気づいていない。


 シロはそちらを見ないようにした。


 夜の紹介状は、まだ一人分多かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ