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# 第73話 門番の帳面



 リムワードの門では、剣より帳面が強かった。


 門番の横に座る若い文官が、眠そうな目で荷札をめくっている。袖口にはインク染み。机の端には、冷めた茶と山積みの苦情票。


「次」


 声に元気がない。


 マルクが笑顔で進み出た。


「白い森産の保存食と滋養粉です。砦への納入実績あり。こちらが証文」


 文官は証文を見た。


「白い森」


 そこで目が少し覚めた。


「怪物の森か」


 列の後ろがざわつく。誰かが「兵が眠らされた」と言い、別の誰かが「でも薬は効く」と返した。


 シロは黙っていた。


 ここで説明しすぎると怪しい。会社でも、聞かれていないことを長く話す新人は疑われる。


 文官は帳面に名前を書いた。


「担当ユーリス。荷を開けろ」


 兵が袋を開く。保存キノコの乾いた匂いが出た。腐っていない。虫もいない。


 ユーリスは眉を寄せる。


「本当に腐らないのか」


「湿気を避ければ長持ちします」


 マルクが答えた。


「薬は」


「咳止め胞子。吸い過ぎは眠気が出ます」


 シロはそこで口を挟んだ。


「眠気が出るので、仕事中の兵には少量だけです。寝る前なら少し多めでもいい」


 ユーリスがこちらを見た。


「お前は」


「薬売りの助手です」


 瞬きを忘れない。


 吸う。吐く。疲れた顔。


 ユーリスはじっと見てから、帳面に線を引いた。


「火気厳禁。薬は診療所で確認。保存食は商会倉庫へ。税は通常の二倍」


「二倍ですか」


 マルクの笑顔が固まる。


「怪物税だ」


 ユーリスは悪びれない。


「俺が決めたんじゃない。上が決めた。文句があるなら、上に言え。俺も言いたい」


 その言い方があまりに疲れていて、シロは少しだけ同情した。


 上が決めた。


 聞き慣れた言葉だ。


 マルクは銀貨を払った。痛い出費だが、門は開いた。


 通る直前、ユーリスが低く言った。


「下水近くの貧民街で咳が増えてる。薬が本物なら、医師サーラに見せろ。偽物なら、俺の仕事が増える」


 脅しの形をした紹介だった。


 シロは頷く。


「本物です」


「なら助かる」


 ユーリスはまた眠そうな目に戻った。


 リムワードの門が開く。


 白い森は、税を払って街へ入った。


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