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# 第70話 届かなかった報告



 ナーディルの報告書は、完成しなかった。


 革の筒に入る前に、白い菌糸が紙を開いた。


 そこには、短い言葉が並んでいた。


 白い森は薬を持つ。


 白い森は食料を持つ。


 白い森は死者の騎士を持つ。


 白い森は火で焼くと増える可能性がある。


 最後の一文には、強い筆圧が残っていた。


 火で焼くと増える。


 火で焼くと増える。


 火で焼くと増える。


 シロはその三行を見て、少しだけ寒くなった。


 もしこれが外へ出ていたら。


 どこかの会議室で読まれる。


 誰かが笑う。


 誰かが恐れる。


 誰かが、もっと大きな火を用意する。


 そして、現場だけが死ぬ。


 前の会社と同じだ。


 会議室で決まった無茶を、現場が残業で処理する。


 ただし今の現場は、村であり、森であり、自分の庇護民だった。


 シロはナーディルたちの遺体を見た。


 弔うべきだ。


 そう思った。


 同時に、資源として使えるとも思った。


 情報を持った敵性個体。


 処分済み。


 分解可能。


 その考えが自然に出たことに、シロは少し迷った。


 少しだけ、嫌だった。


 カトラスは静かに待っている。


「墓標を作ります」


 シロは言った。


「ただし、場所は森の内側です。外から見えないように」


「承知しました」


 カトラスは深く頭を下げた。


 中立国の諜報員は、帰らなかった。


 報告書も届かなかった。


 だが、届かなかった報告は、シロの中に残った。


 外はもう、こちらを見ている。


 こちらが見に行かなければ、次も森の外れで殺すことになる。


 それは守ることか。


 それとも、ただの口封じか。


 答えは出ない。


 だからシロは、外へ出ることを決めた。


 噂だけで決められる前に。


 そして、自分がまた処分を選ぶ前に。



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