# 第68話 過剰な敬意
カトラスは濡れた土の上で片膝をついた。
森の外れである。
王宮でもない。
玉座もない。
それでも彼は、王に裁可を求める騎士のように頭を垂れた。
「主。処分の許可を」
シロは嫌そうな顔をした。
「その言い方、やめませんか」
「では、情報漏洩防止のための処理許可を」
「もっと嫌です」
緊張した場なのに、少しだけ間が抜ける。
だがナーディルは笑えなかった。
この冗談の後に、自分は死ぬかもしれない。
カトラスは本気だ。
シロも、本気で悩んでいる。
白い森は、優しい顔で残酷な会議をする。
ナーディルはその構造を見た。
王が曖昧に言う。
臣下が制度にする。
王が困る。
だが制度は残る。
これが広がれば、国になる。
危ない。
危なすぎる。
「主の望みは、森を守ること」
カトラスが言った。
「この者を帰せば、森を焼く策が増えます」
「ラファンは乾燥地帯です。すぐには来ません」
「だからこそ、他国へ売る」
シロは黙った。
それは正しい。
ナーディルは情報を売れる。
中立国の諜報員は、情報を金に変える。
彼自身も、否定できなかった。
シロは白い手を見た。
その手は細い。
人を殺す手には見えない。
だが足元の菌糸は違う。
いつでも首に届く。
「僕は」
シロは一度、言葉を切った。
「殺したいわけではありません」
ナーディルは少しだけ期待した。
次の言葉で、期待は終わった。
「でも、必要なら処分します」




