# 第67話 中立の計算
ナーディルは交渉に切り替えた。
命乞いではなく、計算だ。
「私を殺せば、ラファンは疑う」
「帰らなければ、最初から疑うでしょう」
シロは答えた。
「なら帰した方がいい」
「帰した場合、報告書が出ます」
会話は短い。
剣より冷たい。
ナーディルは水袋を叩いた。
「我が国は乾いている。お前たちの白い糸は広がりにくい。敵に回すより、距離を置く相手にした方がいい」
「それは分かります」
シロはあっさり認めた。
「ラファンは砂漠戦と補給が強い。でも水と医療が弱い。薬と保存食だけなら、将来取引できます」
「なぜ知っている」
「少し、知識があります」
シロは濁した。
ナーディルは見逃さない。
白い森は、外を知らないはずなのに、外の弱点を言った。
乾燥地帯。
水。
医療。
補給。
会議で使う単語ばかりだ。
ますます持ち帰る価値が上がった。
だから、ますます帰してもらえない。
ナーディルは苦く笑った。
「私の価値が高すぎるな」
「はい」
シロは申し訳なさそうに頷いた。
その顔に、ナーディルは少しだけ腹が立った。
殺すなら、もっと憎んでほしい。
怒ってほしい。
怪物らしく笑ってほしい。
だがシロは違う。
必要だから殺す。
それが一番、国家に近い。
「最後に一つ聞く」
ナーディルは言った。
「お前は、王なのか」
シロは困ったように黙った。
代わりに、カトラスが答えた。
「我らの主だ」
それだけで十分だった。




