65/88
# 第65話 菌騎士の剣
カトラスの剣は、速く見えなかった。
少なくともナーディルには、そう見えた。
派手な光もない。
大きな叫びもない。
ただ、敵が動く前に白い刃が置かれている。
一人目の短剣が落ちた。
次に指が落ちた。
二人目の膝が折れた。
三人目は首を押さえ、声も出せずに倒れた。
殺している。
先ほどまでの報告書にあった「殺さず眠らせる怪物」ではない。
必要なら殺す。
それも、迷わず殺す。
ナーディルの背中に汗が流れた。
白い森は優しいのではない。
優しくする価値がある相手を、選んでいただけだ。
同行者が火をつけた。
小さな炎が、油を舐める。
森の白い菌糸が焼ける。
普通なら燃え広がる。
だが、白い菌糸は黒くならなかった。
むしろ膨らんだ。
火を吸ったように、太くなる。
「燃えたのに、増えた」
ナーディルは思わず呟いた。
燃えたのに、増えた。
燃えたのに、増えた。
これは絶対に持ち帰らなければならない情報だった。
だが、そのためには生きて帰らなければならない。
最後の部下が逃げようとした。
カトラスが振り向く。
白い剣が、背中から胸へ抜けた。
部下は前のめりに倒れた。
森は静かになった。
残ったのはナーディルだけだった。
彼は両手を上げたまま、標本袋を地面に落とした。
白い菌糸が、それをゆっくり包んだ。




