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# 第61話 中立国の眼
仮称マイコニア。
その名前が商人の帳面に載った三日後、白い森の外れに砂色の外套を着た男が来た。
男の名はナーディル。
ラファン・カリフ国の諜報員である。
中立国。
どちらの味方でもない国。
そう聞くときれいだが、実際は違う。強い国に踏まれず、弱い国に引きずられず、最後まで生き残るための立場だった。
ナーディルは左腰の水袋を確かめた。
森は湿っている。
湿った土。
白いキノコ。
木の根に絡む細い菌糸。
乾いた国から来た彼には、その全部が敵に見えた。
「白い森は脅威か。薬か。食料庫か」
上からの命令は簡単だった。
調べろ。
盗めるなら標本を盗め。
危険なら焼く場所を見つけろ。
ナーディルは噂を信じない。
噂は砂より軽い。風で形を変える。
だから靴を見る。
村人の靴。
商人の靴。
元盗賊らしい作業員の靴。
皆、白い泥をつけていた。
同じ泥だ。
同じ場所へ通い、同じものに守られている。
白い森は、もう怪物の巣ではない。
人が出入りする場所になっている。
そこが一番まずい。
怪物だけなら焼けばいい。
だが、村人が助けられているなら、焼いた側が悪者になる。
ナーディルは森の奥を見た。
彼はまだ知らない。
中立国の眼が、すでに白い森からも見られていることを。




