# 第59話 交渉使者
交渉使者として来たのは、バルドだった。
護衛は二人。
セインとミラもいる。
レオンはいない。
それだけで、今回は剣より紙の回だと分かった。
シロは白い橋の手前で迎えた。
バルドは馬を降り、短く頭を下げる。
「白い森、いや、仮称マイコニアの代表シロ殿」
言われた瞬間、シロは少し固まった。
もう伝わっている。
早い。
マルクの帳面は、下手な伝令より速い。
「まだ仮称です」
「報告書にもそう書かれている」
ミラが羽ペンを持ち上げた。
書類に載った。
もう逃げにくい。
バルドは条件を読み上げた。
一、村の税は帝国へ従来通り納める。
二、マイコニアは保存キノコと滋養粉を砦へ少量売る。
三、火矢と油の持ち込みは事前申告。
四、帝国兵が森へ入る場合は、白い橋で名乗る。
五、マイコニアは帝国の敵対国へ兵糧を売らない。
最後の条件で、マルクの眼鏡が光った。
「商売の制限ですな」
「安全保障だ」
バルドが答える。
シロは内容を考えた。
悪くない。
少なくとも、今すぐ戦うよりはいい。
だが、五つ目は重い。
誰に売るかを縛られる。
それは、白い森がただの森ではなく、外交相手として扱われている証拠でもある。
「こちらの条件もあります」
シロは言った。
バルドの目が細くなる。
「村人を捕らえない。祈り場を壊さない。森を焼かない。けが人が出た場合、治療のための通行を認める」
セインが水晶板を抱え直した。
「治療の通行とは」
「けが人を運ぶ道です」
グレンなら喜ぶだろう。
レオンなら怒るだろう。
バルドは少し考え、言った。
「持ち帰る」
即答ではない。
だが、拒否でもない。
それで十分だった。
交渉は半日続いた。
難しい言葉は少なくした。
麦。
塩。
道。
火。
けが人。
誰でも分かる言葉にした。
夕方、ミラの紙にはこう書かれていた。
仮称マイコニア。
怪物。
ただし交渉可能。
シロはその文字を見て、静かに思った。
勝った。
戦ではなく、紙の上で。
その勝ち方は、剣で勝つより後を引きそうだった。




