# 第57話 怪物だが話せる
ザイツの報告は、短くなかった。
森は危険。
道を迷わせる。
火は効きにくい。
胞子で兵を眠らせる。
カトラス卿がいる。
表示Lv1のシロは、実態不明。
ここまでなら、討伐理由になる。
だが続きがあった。
村人は殺されていない。
捕虜は治療された。
武器の一部は返された。
遺骨と遺品は返還された。
取引条件は明確。
火矢と油を除けば、交渉は成立する。
ヴァルガは報告書を読み終え、目を閉じた。
「怪物だな」
「はい」
ザイツは答えた。
「だが、話せる」
「はい」
その一言が、会議室を重くした。
怪物なら討てる。
話せる怪物は、面倒だ。
交渉できる相手を討つには、理由がいる。
しかも白い森は、砦の現場を少し助けている。
グレンは床を見ていた。
保存キノコは、もう完全には止められない。
止めれば、現場が困る。
続ければ、白い森に道ができる。
どちらも問題だ。
ミラは報告書の端に、こう書いた。
白い森、危険。
ただし交渉可能。
その文字を見て、バルドが小さく息を吐いた。
「この一行は残るな」
「残すために書きました」
ミラの声は静かだった。
記録役らしい答えだ。
レオンは不満そうに机を叩いた。
「話せるから何だ。敵は敵です」
正しい。
だが、正しいだけでは決められない。
ヴァルガは保存キノコの袋を見た。
「第二波は出す。ただし、交渉使者も立てる」
レオンが顔を上げる。
「交渉を?」
「剣を抜く手と、握手する手は両方必要だ」
ヴァルガは言った。
グレンは、その言葉を聞いて嫌な予感を覚えた。
白い森は、怪物から交渉相手に変わり始めている。
それは平和に近い。
同時に、戦争より深いところへ入る入口だった。




