# 第56話 骨壺の白い膜
砦に骨壺が戻った日、会議室は静かだった。
ヴァルガは九つの骨壺を見た。
レオンは顔をしかめる。
グレンは、壺の内側に残る白い膜に気づいた。
「これは」
バルドが近づく。
「輸送中に骨が崩れないようにする菌糸膜だそうです」
セインが水晶板を向ける。
薄い光。
表示は乱れた。
【微弱反応】
【生体なし】
【菌糸残留】
レオンが剣に手をかけた。
「敵の印だ。燃やすべきです」
グレンの喉が鳴る。
火。
また火だ。
バルドが首を振った。
「遺族へ返す前に燃やすのか」
「敵の菌を持ち込む方が危険です」
正しい。
だが、遺族の前で骨を焼き直すのも重い。
ヴァルガは壺を一つ持ち上げた。
中には骨と銅板。
兵の名前。
家族の名前。
白い森は、それを捨てなかった。
「怪物のくせに、弔いをする」
ヴァルガは低く言った。
誰も答えない。
怪物なら、ただ殺して食えばいい。
敵なら、遺体をさらせばいい。
だが白い森は、骨壺を返した。
薄い菌糸膜つきで。
善意なのか。
罠なのか。
両方なのか。
グレンは、それが一番怖いと思った。
遺族への返還式は、翌日行われた。
母親が泣いた。
妻が銅板を握った。
子どもが、壺の白い内側を見て「きれい」と言った。
誰も、その場で壺を壊せとは言えなかった。
レオンでさえ黙った。
その沈黙の中で、白い森の噂は変わった。
兵を眠らせる森。
死んだ剣聖の森。
火を食う森。
そして、骨を返す森。
グレンは返還式の端に立ち、思った。
これは討伐しにくい。
殺した相手の骨を返す怪物は、厄介だ。
人は、怒りながら迷ってしまう。
迷いは、剣を遅くする。




