# 第55話 返す骨
全員を帰せたわけではない。
眠り胞子の前に転倒し、首を打った兵。
火矢の油壺が割れ、火傷を負って助からなかった兵。
混乱の中で味方の槍に刺された兵。
死者は出た。
シロは、その数を何度も確認した。
九人。
十ではない。
九。
数を間違えたくなかった。
シロは白い祈り場の近くに、兵の遺品を並べた。
剣帯。
靴紐。
小さな木の札。
妻子の名前が刻まれた銅板。
どれも、誰かの持ち物だった。
カトラスが膝をつく。
「王よ。死者の再任用は」
「しない」
シロは即答した。
「敵兵です」
「だから返す」
「死してなお、敵国へ?」
「家へ」
カトラスは黙った。
今回は、少しだけ考えているようだった。
シロは遺体を見た。
分解できる。
経験値になる。
骨は建材に、肉は土に、装備は素材に。
便利だ。
便利すぎる。
だから、今回は返す。
全部ではない。
菌糸で骨だけ取り出す。焼かない。一晩あれば形が整う。それを骨壺へ入れ、遺品を添える。
きれいな弔いではない。
それでも、何もしないよりはましだと思いたかった。
リゼットが横から言う。
「薄い菌糸膜を残すのですか」
「輸送中に崩れないように」
「位置反応も拾えますね」
シロはリゼットを見た。
「言わない」
「事実です」
「今は、言わない」
リゼットは肩をすくめた。
シロは骨壺の内側を見た。
薄い白い膜。
骨が崩れないよう、形を保つ。
同時に、菌糸の印にもなる。
弔いと監視。
また同じ形になっていく。
ザイツはその骨壺を受け取った。
「遺族へ渡す」
「お願いします」
「なぜ、ここまでする」
シロは少し迷った。
「雑に扱うのが嫌だからです」
それは本当だった。
ザイツは骨壺を見た。
「嫌、か」
彼はそれ以上言わなかった。
九つの骨壺が、帝国へ帰っていく。
シロはその背を見送った。
報酬は、経験値ではない。
弔いを返したという事実。
それが後で、もっと大きなものになる予感がした。




