# 第53話 ザイツの条件
ザイツは、降伏とは言わなかった。
「一時停戦だ」
彼はそう言った。
シロは否定しなかった。
言葉は大事だ。
降伏と書けば、ザイツの顔が潰れる。
一時停戦なら、報告書に書ける。
前世でも、失敗を失敗と書かず「課題」と呼ぶことがあった。嫌な文化だと思っていたが、今は少し分かる。人を動かすには、逃げ道のある言葉も必要だ。
「条件を確認します」
シロは言った。
「一、兵は明朝帰す」
ザイツが頷く。
「二、火矢と油は返さない」
「受け入れる」
「三、けが人は治す。ただし治療記録は森に残す」
ザイツの眉が動いた。
「記録とは」
「誰に何をしたか。再発した時に分かるように」
嘘ではない。
だが、それだけでもない。
治療した者は、菌糸網の近くで反応を拾いやすくなる。
医療記録。
監視の入口。
シロはそこを説明しなかった。
ザイツは少し考え、頷いた。
「命が助かるなら、受ける」
正しい判断だ。
そして、白い森にまた一つ入口ができる。
「四、村人には手を出さない」
「私の部下には命じる」
「レオンにも」
ザイツは苦い顔をした。
「命じる」
レオンは離れた場所で、縛られて座っていた。眠りから覚めたばかりで、顔色が悪い。
それでも目だけは怒っている。
あの怒りは消えない。
たぶん、今後も面倒になる。
カトラスがシロの横に立つ。
「王よ。反抗の強い者は残すべきです」
「帰す」
「なぜ」
「怒っている人間ほど、何をされたか強く語る」
カトラスは少し考えた。
「恐怖の伝令」
「違うけど、近い」
ザイツはその会話を聞いていた。
「あなたは、ずいぶん嫌なことを考える」
「必要なので」
シロは答えた。
ザイツは笑わなかった。
「そういう指揮官は、生き残る」
褒め言葉ではない。
シロにも分かった。
朝、停戦条件は木札に刻まれた。
紙ではなく、白い菌糸の木札。
帝国側から見れば気味が悪い。
だが、消えにくい。
ザイツはそれを受け取り、言った。
「これも報告する」
報酬だ。
また一枚、帝国の書類に白い森が増える。




