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第45話 白衣のリゼット



 白衣の女が、白い道標の前に倒れていた。


 泥だらけだった。


 白衣の裾は湿り、眼鏡は片側が割れている。背中には小さな箱。箱の隙間から薬草と瓶が見えた。


 ニコが棒でつつこうとした。


「やめて」


「死んでます?」


「まだ」


 女は薄く目を開けた。


「死んでません。失礼ですね」


 声は細いが、口はしっかりしていた。


 シロはしゃがむ。


「名前は」


「リゼット。薬師です。正確には、錬金術師に近いですが」


 既に面倒そうだ。


 リゼットはシロの白い手を見た。


 次に、周囲の菌糸を見る。


 目が変わった。


 疲れた人間の目ではない。


 研究者の目だ。


「表示Lv1の白い代表。Lv92の菌化聖騎士。火で増える森。咳止め胞子。保存キノコ」


「どこで聞いた」


「砦の薬箱係が喋りました。酒場で」


 グレンの顔が浮かんだ。


 たぶん彼ではない。だが砦の誰かが喋ったのだろう。


 情報は漏れる。


 水より漏れる。


 リゼットは起き上がろうとして、失敗した。


「研究させてください」


「今、戦の前です」


「だからです。戦の前ほど素材が動きます」


 ニコが引いた。


「この人、怖いです」


「分かる」


 リゼットは気にしない。


 割れた眼鏡の奥で、目だけが光っている。


「あなたの火属性反転、普通の耐性ではありません。鑑定不能も、たぶん表示階層と内部階層がずれています。これ、放置すると危ないです」


 シロは黙った。


 今までで一番、核心に近い言葉だった。


 ゲーム掲示板で見たバグの話。


 表示Lv1。


 内部Lv300超。


 それを、この女は術式の言葉で近づいてきた。


 カトラスが剣に手をかける。


「王の秘密に触れる者は」


「待って」


 シロは止めた。


 リゼットは怖い。


 だが、使える。


 そして、使えると思った自分が少し嫌だった。


「治療します。話はその後」


「治療ついでに胞子の採取を」


「しない」


 リゼットは本気で残念そうな顔をした。


 こうして、白い森に初めての研究者が転がり込んだ。


 助けた報酬は、知識。


 ただし、かなり危ない知識だった。


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