第44話 火を使うな
「火を使うな」
シロはニコに言った。
「鍋もですか」
「鍋はいい」
「森はだめ」
「そう」
「何回も聞いてますけど、不安なんですよ」
ニコは灰色の作業上着の胸元をつまんだ。白い作業員札が揺れる。
その不安は正しい。
火は普通、キノコに効く。
おばけきのこも本来は火に弱い。ゲームの図鑑にもそう書かれていた。
だが、シロは違う。
エイプリルフールの一日限定職。
表示Lv1のまま内部値が壊れた、未修正のネタ職。
火属性ダメージが、なぜか回復と増殖に足されることがある。
簡単に言えば、焼くと痛い。
痛いが、増える。
「敵が森を焼いたら、僕は増える。でも村も燃える」
シロは言った。
「だから、火を撃たせる場所を選ぶ」
ニコは眉を寄せる。
「こっちから火を使うんじゃなくて、向こうに空振りさせる?」
「そう」
マルクが横で頷いた。
「鍋と森の違いに続き、今度は火の当て先ですな」
「分かりやすく言うと」
「家に火をつけるな。湿った空き地へ撃たせろ」
「それです」
ニコが手を叩いた。
「分かりました。家はだめ。湿った空き地なら、敵が勝手に損する」
カトラスは不満そうだった。
「王よ。敵火を受け、御身を増やすのであれば、あえて正面に」
「村を燃やさない」
「はい」
短く答えた。
今回は早かった。
シロは少しだけ安心する。
森の中に、湿った広場を作った。
落ち葉をどかし、泥を増やし、菌糸を厚く張る。
遠くから見ると、乾いた枯れ草が積まれているように見える。
実際には、その下は水と菌糸だ。
敵が火矢を撃てば、白い煙と胞子が立つ。
燃えるより、広がる。
ゲーム知識の悪用。
シロはそう思った。
だが、今は使う。
向こうが火を選ぶなら、その火でこちらが増える。
汚いやり方だ。
けれど村を守るには、きれいな手順だけでは足りなかった。




