第42話 薄い鍋
取引が絞られた日、砦の鍋は薄くなった。
水が多い。
麦が少ない。
干し肉は細かく刻まれすぎて、どこに入っているのか分からない。
下働きの少年が椀を見て、何も言わずにすすった。
グレンはそれを見ていた。
会議では「少量継続」と書かれた。
現場では、椀が軽くなる。
この差を、偉い人はあまり見ない。
同じ頃、白い森にも変化が出ていた。
マルクの馬車は小さかった。塩袋も布も少ない。
オルド村長は荷台を見て、顔を曇らせる。
「これだけですか」
「砦の管理下です。私も好きには運べません」
マルクは丸眼鏡を直した。帳面の角が湿気で曲がっている。
ニコが袋を持ち上げる。
「軽い」
「軽いと言うな。私の儲けも軽い」
マルクが苦い顔をする。
シロは荷台を見た。
取引が細くなる。
つまり、砦はまだ白い森を切り捨てていない。
同時に、頼りすぎないよう手綱を引いている。
分かりやすい。
嫌なほど。
「砦は動きますか」
シロが聞くと、マルクの目が細くなった。
「三百ほどの部隊が準備中です。隊長はザイツ。現場で兵を動かせる男です」
名前が出た。
シロはそれを菌糸の帳簿へ入れる。
ザイツ。
討伐軍第一波。
「いつ」
「早ければ三日」
オルド村長の顔から血の気が引いた。
ニコは荷袋を落としかけた。
カトラスだけが、静かに剣へ手を置く。
「王よ。ようやく敵が形を取りました」
「喜ばない」
「はい」
声だけは従順だった。
シロは村を見る。
鍋。
庇護札。
祈り場。
白い道標。
全部、守る必要がある。
戦う場所は森だ。
だが失うものは、村の生活だった。




