第41話 砦長ヴァルガ
砦長ヴァルガは、保存キノコの袋を机に投げた。
白い袋が、石の会議室で軽く跳ねる。
「これが問題の品か」
グレンは背筋を伸ばした。
「はい。乾燥キノコです」
「食えば腹がふくれる。咳の粉もある。道も直る。村も静かになる」
ヴァルガは報告書をめくった。
「便利すぎるな」
会議室の空気が重くなる。
便利すぎる。
その一言は、白い森をよく表していた。
バルドは壁際に立っている。短い髭の下で、口は固い。セインは水晶板を抱え、ミラは羽ペンを握ったまま待っていた。
若い将校レオンが言った。
「だからこそ早く焼くべきです。村が完全に取り込まれる前に」
「火は避けろと報告したはずだ」
バルドが静かに言う。
「焼けば増えるという噂でしょう」
「噂だけではない」
グレンは思わず口を出した。
レオンの目が細くなる。
「また現場の話か」
「現場の飯の話です」
グレンは言い返した。
言ってから、少し驚いた。
いつもなら黙っていた。
だが、保存キノコを止めた翌日の鍋の薄さを知っている。咳で眠れない下働きも見た。会議室の正しさだけで、現場は回らない。
ヴァルガが手を上げた。
「討伐はする」
部屋が静まる。
「ただし、火だけで済むと思うな。白い森は数字で測れない。食料で現場を押さえ、村人を味方にし、死んだ剣聖まで動かしている」
ヴァルガは袋を指で叩いた。
「これは敵の兵站だ」
グレンは唇を噛んだ。
保存キノコは飯だ。
だが砦長の目には、兵站に見える。
どちらも間違っていない。
「第一波はザイツに任せる。規模は三百。森を測り、祈り場を押さえ、代表シロを捕らえる」
レオンが不満そうに言う。
「三百で足りますか」
「足りるかどうかを見るための三百だ」
ヴァルガは短く切った。
バルドは目を伏せた。
その顔を見て、グレンは嫌な予感を覚えた。
これは、止まらない。
白い森は剣を抜かせない理由を作った。
だが帝国は、剣を抜く理由も見つけてしまった。




