表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
38/41

第38話 白い森報告書



 白い森にも、報告書の内容は届いた。


 紙そのものではない。


 砦へ戻ったマルクが、グレンから聞いた話を、少し安い布と一緒に運んできた。


 情報は商品だ。


 丸眼鏡の商人マルクは、それをよく分かっている。


「討伐の準備はする。すぐには来ない。取引は細く続ける。追加調査あり」


 マルクは帳面を見ながら言った。


 オルド村長の家に集まった者たちの顔が暗くなる。


 オルド村長。


 ニコ。


 兵站品を作る村の女たち。


 カトラス。


 そしてシロ。


「細く続ける、とは」


 オルド村長が聞く。


「いきなり切ると砦が困る。ですが増やすと白い森に頼りすぎる。だから少しだけ買う」


 マルクが分かりやすく言い直す。


「つまり、怖いが欲しい」


 ニコが言った。


「その通りです」


 マルクは頷いた。


 シロは、少し嫌な気分になった。


 白い森への評価が、だんだん一つの言葉にまとまっていく。


 怖いが欲しい。


 便利だが危ない。


 助かるが近づきたくない。


 正しい。


 だが、正しすぎて不快だ。


「追加調査は、何を調べる」


 シロが聞く。


「カトラス卿のこと。表示Lv1のこと。火への反応。村の税。そして、森の本当の中心」


 最後の言葉で、部屋が静かになった。


 森の本当の中心。


 本体だ。


 シロの本体。


 巨大な菌糸塊、白い傘、土の奥で脈打つ根。


 それを知られるとまずい。


 シロは白い手袋の指を机に置いた。


「本体は隠します」


 オルド村長が小さく頷く。


 彼は本体を見ていない。


 だが、見てはいけないものがあることは分かっている。


 カトラスが膝をつこうとしたので、シロは先に言った。


「座って」


「はい」


 カトラスは座らない。


 立ったまま、言う。


「本体へ近づく者は、すべて斬ります」


「まず捕まえる」


「捕まえてから斬ります」


「斬らない」


「では、捕まえてから土へ」


「土へもやらない」


 ニコが、困った顔で笑った。


 怖い話なのに、会話がずれる。


 しかし笑いはすぐ消えた。


 本体を探される。


 それは、村人にも危険な話だと分かった。


 シロは考える。


 どう隠すか。


 物理的に守るだけでは足りない。


 探そうと思わせないことも大事だ。


 前世でも、見られたくない資料は鍵のかかった棚に入れるだけでは足りなかった。そもそもその資料があると知られない方がいい。


「中心を作ります」


 シロが言うと、マルクが眉を動かした。


「作る?」


「見せてもいい中心です」


 オルド村長が首を傾げる。


「偽物ですか」


「はい」


 分かりやすく言った。


 見せてもいい祠。


 白いキノコを集めた場所。


 祈りの場、ということにする。


 そこへ調査隊の目を向ける。


 本当の本体は、さらに奥に隠す。


 カトラスの兜の奥で、白い光が揺れた。


「王の偽りの玉座」


「玉座と言わない」


「では、仮の祈り場」


「それで」


 マルクが帳面に書いた。


「祈り場なら、調査隊も踏み荒らしにくい」


「なぜ」


「宗教っぽい場所は、雑に扱うと揉めます」


 シロは納得した。


 まだ宗教にするつもりはない。


 だが、祈り場という形は盾になる。


 これは使える。


 そう思ってから、少し嫌になった。


 弔いも、祈りも、どんどん便利な道具になっていく。


 村の女が手を上げた。


「祈り場なら、子どもが花を置いてもよいですか」


「花?」


「助かった子たちが、森の方へお礼をしたいと」


 シロは黙った。


 偽物の中心。


 目くらましのための場所。


 そこに、子どもが花を置く。


 嫌な話だった。


 けれど、その花は本物だ。


 シロは少し迷って、頷いた。


「よいです」


 女は安心した顔をした。


 カトラスは、なぜか深く感じ入っている。


「民の祈りを受ける場。やはり玉座では」


「違う」


 シロの否定は、あまり強くなかった。


 翌日から、村の外れに小さな祈り場が作られた。


 白いキノコ。


 平たい石。


 子どもが置いた野の花。


 見せてもいい中心。


 嘘で作った場所なのに、村人の感謝が置かれていく。


 シロは本体の奥で、それを見ていた。


 偽物のはずの場所が、少しずつ本物になっていく。


 それが、一番困った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ