第33話 帝国調査隊
帝国調査隊は、昼前に来た。
馬六頭。
騎士四人。
鑑定官セイン一人。
記録役ミラ一人。
そして砦の兵站係グレン。
グレンは案内役として連れてこられたらしい。顔色が悪い。上司に挟まれた中間管理職の顔だった。
シロは白い橋の手前で待った。
古い外套を直し、手袋を確かめる。瞬きも忘れない。
馬が近づく。
馬は白い橋を嫌がった。魔獣骨と菌糸でできた橋だ。見た目は白く、なめらかで、雨でも滑らない。便利だが、生き物には分かるのだろう。普通の橋ではないと。
先頭の上級騎士バルドが馬を降りた。
五十前後の男だった。髭は短く整えられ、肩の鎧には古い傷がある。腰の剣は飾りではない。
「ここが白い森か」
「はい」
シロは短く答えた。
バルドは橋を見た。
「何でできている」
「骨と菌糸です」
後ろの若い騎士が、顔を引きつらせた。
シロは少し反省した。
正直すぎたかもしれない。
丸眼鏡の商人マルクなら、たぶん「丈夫な白い建材です」と言ったはずだ。
バルドは黙って橋を踏んだ。
ぎしりとも鳴らない。
馬車が通れるほど強い。
「よくできている」
意外な言葉だった。
シロは少し驚いた。
「怖くないのですか」
「怖い。だが橋は橋だ」
バルドは村へ視線を向けた。
「役に立つものを、怖いから見ないふりをするほど若くない」
シロは少しだけ、この男を評価した。
無能ではない。
だから面倒だ。
村の広場では、マルクが品物を並べていた。乾燥キノコ、塩、布、針、鍋。炊き場ではキノコ粥が煮えている。白い木札が家々の戸口に揺れ、道の端には白い道標が立つ。
調査隊は一つずつ見た。
最初に食料。
次に薬。
最後に巡回。
順番は守った。
「この乾いたキノコが、砦に入っている保存食か」
バルドが聞く。
「はい」
グレンが答えた。
声が少し小さい。
「お前が通したのか」
「現場で必要でした」
「許可は」
「後で取るつもりでした」
バルドの目が細くなる。
グレンの肩が縮んだ。
分かる。
現場判断を後から詰められるのは、本当に嫌だ。
シロは口を挟んだ。
「保存食に問題はありません」
バルドの視線がこちらへ来る。
「問題があるかどうかは、こちらが見る」
「分かりました」
シロは引いた。
ここで言い合っても得はない。
丸眼鏡の商人マルクがすっと前へ出る。
「試食をどうぞ。私も食べています」
「マルクは毒でも売る」
グレンと同じことを言った。
マルクは慣れた顔で返す。
「毒なら、三度も同じ道を通りません」
バルドは少しだけ口元を動かした。
受けた。
シロは内心でマルクに感謝した。
調査隊の若い騎士がキノコ粥を食べる。
緊張していた顔が、少しだけゆるんだ。
「普通にうまいです」
「普通」
バルドが復唱する。
その普通が大事だった。
怪しい森の怪しい食べ物が、普通に腹へ入る。
それだけで、人は少し判断を変える。
次に滋養粉を見せた。
咳止め胞子を薄めたものだ。
効き目は、咳を軽くし、眠りやすくする。腹が減る。熱が高い時は医者を呼ぶ。
シロは同じ説明を、短く二度繰り返した。
「咳が軽くなる。眠れる。腹が減る。高熱には別の手当て」
若い騎士が聞く。
「万能薬ではないのか」
「違います」
マルクがすぐに言い足す。
「そこが売りやすいのです。万能薬と言うと怪しい。咳に効く粉なら、まだ信じられる」
バルドはマルクを見た。
「よく喋るな」
「商売ですので」
調査隊の空気が、少しずつ緩む。
食料。
薬。
道。
どれも生活の話だ。
魔王の森というより、便利な村の外れに見えてくる。
シロは、その流れにほっとしかけた。
その時、セインが水晶板を取り出した。
「代表者の確認を行います」
来た。
シロは、シロの白い手袋の中で指を握った。
表示Lv1。
バグ。
説明できない数字。
便利な生活の話が、そこで壊れる予感がした。




