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109/115

# 第109話 光を持つ者



 戦場の煙が東へ流れた。


 シロは菌糸網越しに見ていた。


 聖火騎士たちは散らばっている。前へ出る者、退く者、混乱する者。


 だが一人だけ、向きが違った。


 前にも退きもせず、横丁の奥へ走っていた。


 燃える木箱の陰に子どもが三人いた。


 彼は一人ずつ引きずり出した。


 命令ではない。


 誰も見ていない。


 他の騎士は誰も気づかなかった。


 甲冑の肩に、古い刻み文字があった。


 バルテロの代になる前の、古い祈りの形だ。


 聖火の熱が上がるたびに、その文字がうっすら光る。


 炎のためではない。


 体温だった。


 子どもたちが震えていたからだ。


 シロは小さな分体を一つ動かした。


 石畳の隙間から上がる、手のひらほどの白い傘だ。


 騎士は剣を構えかけて、止まった。


 高さが膝くらいしかない。


 目が合った。


「来るなら、場所がある」


 シロは言った。


 声は石の隙間から出た。


「異形か」


「そうです」


「おまえたちが、この街を飲み込む」


「そうなるかもしれません」


 正直に言った。


 騎士は少し目を細めた。


 怒ってはいなかった。


「場所というのは、何だ」


「あなたが守りたいものを、守れる場所です」


 騎士は答えなかった。


 燃えた横丁を見た。


 子どもたちを見た。


 遠くで上がる聖火の柱を見た。


「この街で誰かが死ぬ時、おまえの森は灯りを持っていてくれるか」


 シロは止まった。


「死に際に、暗くないようにする。それだけのことだ」


 騎士は言った。


「聖火でも、教義でも、枢機卿様でもない。誰かが死ぬ時に、そこにいる。それだけに誓った」


 シロは菌糸の中を探した。


 カトラスのことを思った。


 第一菌騎士小隊のことを思った。


 死後に動き続ける者たちのことを思った。


「……います」


 答えた。


「なら二人いる」


 騎士は立ち上がった。


「一人でいい。俺はこちらにいる」


 子どもたちを連れて、煙の奥へ歩いた。


 後ろを振り返らなかった。


「名前は」


 シロは問いかけた。


 騎士の足が少しだけ止まった。


「ルッツだ」


 それだけ言って、煙の中へ消えた。


 シロは石畳の上に、小さな白い分体のまま残された。


 追いかけなかった。


 甲冑の古い刻み文字の光が、煙の向こうで薄くなった。


 菌糸網にその動線を記録した。


 名前の欄に、ルッツと書いた。


 それから、戦場全体の観測へ戻った。



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