# 第106話 薬を選ぶ列
ソルバニア東門の前で、列が二つに分かれた。
一つは大聖堂へ向かう列。
もう一つは、白い森へ向かう列。
最初は大聖堂の方が長かった。
朝の祈り。聖火の祝福。教会税の納付。
それは昔からの形だ。
だが昼になると、白い森へ向かう列が伸び始めた。
理由は分かりやすい。
あちらには寝台がある。
薬がある。
薄いが温かいパンがある。
そして、焼かれない。
白火教会の広場で、若い助祭が叫んでいた。
「異形の薬に頼ってはならない! 魂が汚れます!」
列の中の老人が、咳をしながら聞いた。
「魂は汚れてもいいから、今夜眠れる薬はあるかね」
助祭は答えられなかった。
その沈黙で、列がまた少し動いた。
マティアスは広場の端で、それを見ていた。
止めたい。
止めなければならない。
教会の司祭としては、白い森へ向かう民を止めるべきだ。
だが、彼らの手には祈祷書ではなく、子どもの熱い額がある。
空の薬袋がある。
給料日前の財布がある。
正しさだけでは重すぎる荷物だ。
「司祭様」
昨日の母親が戻ってきた。
背中の子どもは眠っている。
熱が下がった、深い眠りだ。
「教会を捨てるつもりはありません。でも、あの森の薬は効きました」
マティアスは胸が詰まった。
それは裏切りの報告ではない。
救われた報告だ。
喜ぶべきなのに、足元が崩れる。
「……よかった」
やっと、それだけ言った。
その瞬間、白火騎士が二人近づいてきた。
「白い森へ行った者は、記録する」
母親が身を縮める。
子どもが起きそうになった。
マティアスは一歩前へ出た。
「治療を受けた者です」
「異形と接触した者だ」
「では、熱で死ねば清かったのですか」
言ってから、マティアスは自分の声に驚いた。
白火騎士も驚いた。
民衆は見ていた。
教義ではなく、誰が子どもの前に立ったかを。
その日の夕方、大聖堂の献金箱は軽かった。
代わりに、東門のパン屋は売り切れた。
白い森へ行く者が、道中の食事を買ったからだ。
信仰の亀裂は、神学ではなく、銅貨とパンくずの形で広がった。




