# 第104話 聖火炉の強化
白火大聖堂の地下には、巨大な炉があった。
聖火炉。
白い炎を絶やさないための心臓。
炉の前では、若い助祭たちが汗を流している。白い法衣の襟は湿り、袖口には灰がついていた。
バルテロはその灰を見て、不満そうに鼻を鳴らした。
「火力が足りぬ」
炉番の司祭が震えた。
「これ以上は、地下水路の石が割れます」
「割れたら直せ」
「薬草院への熱も止まります」
「薬草院より聖火だ」
短い命令だった。
現場を見ない上層部の言い方だ、とシロなら思っただろう。
マティアスも、似たことを思った。
「枢機卿猊下」
マティアスは喉を押さえた。
「孤児院の子どもたちが咳をしています。聖火炉を強めれば、町中に灰が増えます」
「灰は浄化の証だ」
「肺に入れば病になります」
上級司祭が顔をしかめる。
「マティアス司祭。言葉を慎みなさい」
慎め。
上がそう言う時、たいてい現場は苦しんでいる。
大聖堂の外では、白火騎士たちが整列していた。
銀の鎧。
白い火を刻んだ盾。
聖油壺。
彼らは異形を焼きに行く。
病を焼くため。民を守るため。
そう教えられている。
だから迷わない騎士もいた。
だが、列の端にいる若い騎士は、街角を見ていた。
母親が子どもを背負って歩いている。
大聖堂ではなく、東門へ。
白い森の方へ。
「止めますか」
若い騎士が聞いた。
隊長は唇を噛んだ。
「命令が出るまでは、見るな」
見るな。
それも現場の知恵だった。
見てしまうと、剣が鈍る。
白い森の地下で、シロは炉の熱を感じていた。
本来、火は弱点だ。
ゲームなら、菌類系ジョブは火で終わる。
ただし、一日限定のネタ職だけは計算がおかしかった。
本来はダメージとして引かれる数値が、内部で回復と増殖に足される。
百の火ダメージを受ける。
普通なら百減る。
シロの場合、百ぶん増える。
雑に言えば、炎が肥料になる。
「……嫌な仕様だな」
痛いのは痛い。
熱いのは熱い。
でも増える。
エレナが横に立った。
「聖火炉を強めていますか」
「はい」
「では、あちらは自分で道を開いています」
怖いことを言う聖女だ。
だが声は悲しそうだった。
エレナは、まだソルバニアを憎み切れていない。




