↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
99/150

099話 廃棄所に響く声

無事に竜玉を手に入れ、マージラルの街に戻ったアレフたち。


灼けたような光が、午後のマージラルの街を照らしていた。

蒸気と魔力の匂いが混ざる大通りには、人と魔導具とが共に息づいている。

歯車の音、術式の光、商人たちの掛け声――そのどれもが生きているようだった。


「ふう……やっと戻ってこれたな」


アレフが額の汗を拭うと、隣でジェームスが涼しげに一礼する。


「お疲れさまでございます、アレフ様。竜の迷宮での激闘を経て、ようやく文明の匂いでございますな」


「文明の匂いって……油と煙じゃねぇか」


アスタロスが呆れ顔でつぶやく。

彼女の背に揺れる銀の斧が、街の喧噪に反射してまばゆく光った。


「……でも、こうしてまた戻ってこれたの、なんだか嬉しいです」


ライカが柔らかく微笑んだ。彼女の小さな手には、竜玉の輝きを宿した包みが抱かれている。


「この竜玉を、バッカスさんに渡せば……オート・マタが完成するんだね」


「ああ。これでひとまず、“魔導竜の問題”は終わりだ」


その言葉に、シノが胸を張る。


「当然じゃ! 妾たちが負ける道理など、最初からなかったのじゃ!」


「ま、姫さんも良くやったと思うけどよ。今回も俺様の活躍の方が大きかったけどな」


アスタロスの得意げな様子に、シノの頬が真っ赤に染まる。


「ぬぬぬぬっ!? アスタロスよ……お主の眼はいつから節穴になったのじゃ? どう考えても、妾の方が活躍しとったであろう――」


「はいはい」


アレフが苦笑しながら一行をまとめ、彼らはバッカス工房へと向かった。



蒸気と金属音に包まれた工房の奥で、バッカスが分厚いゴーグルを外した。


「おお、ようやく戻ったか! お前ら、また派手に暴れてきたようだな」


アレフが包みを差し出す。竜玉が淡い光を放ちながら、工房の中を照らした。


「こいつが……守護竜の《竜玉》だ」


バッカスはごつい手でそれを慎重に受け取る。


「ふむ……これほどの純度の竜結晶、百年に一度だ。よくぞここまで持ち帰ったな」


「ああ。まさか、兵器化された暴走竜がいるとは思わなかったけどな」


「ほう……国が何かしていると思っておったが、まさかそんなものを作っておったとはの。 ふはは! じゃが、ま、冒険ってのはそういうもんだろう!」


バッカスは笑いながら竜玉を機械台の上に固定した。


「さて、これをオート・マタの核として使う。だが調整には少し時間がかかる。明日には仕上げて見せる」


「じゃあ今日は休憩だな」


アレフが肩をほぐすと、ライカが嬉しそうに跳ねた。


「やった! じゃあ市場に行こう! ねぇ、アレフお兄ちゃん!」


「……まあ、いいけどな」


こうして、短い休息の一日が始まった。


ライカに手を引かれるまま、アレフたちはマージラルの中心部――通称《蒸気魔導市場》に来ていた。

そこは、数百の露店と魔導車の行き交う、騒然とした空間だった。


「見て見て、アレフお兄ちゃん!」


ライカが指さす先には、透明な結晶ケースの中に“魔導胸増強器《ドリーム・ブースト》”と書かれた札。


「お胸が大きくなる魔導具だって! 僕、これちょっと欲しいかも……ダメ?」


ライカは上目遣いでアレフを見つめる。


「……そんな顔をしてもダメだ」


「ケチっ!」


舌打ちするライカに、アレフがため息をつく。


「……お前、アスタロスに似てきたんじゃないか?」


アレフはため息をつき、ふとアスタロスに目を向ける。


「なあ、兄貴ぃ。酒が作れる魔導具だってよ!」


嬉しそうに振り向くアスタロス。その反動で彼女の豊満な胸が大きく揺れる。

アレフの視線が自然と彼女の胸元へ……


「いや、そうでもないか……」


ライカに視線を戻し、アレフはしみじみと呟いた。


「うわ~ん。アレフお兄ちゃんのバカあ」


泣きながらシノの胸に飛び込むライカ。


――むにゅ。


「………」


ライカの頬に柔らかな感触が伝わる。


「うわ~ん。シノの裏切り者~!」


「おいおい、あんまり嬢ちゃんを虐めるもんじゃないぜ、竜姫さんよぉ」


泣きじゃくるライカの頭を撫でるアスタロス。


「妾が何をしたと言うのじゃあああ!?」


降って湧いた理不尽に嘆くシノであった。


周囲の客が笑いをこらえる中、ジェームスは悠然と紅茶を注ぎながら言う。


「実に平和な午後でございますな。ああ、教育的指導の必要もないほどに」


しかし――その時。


笑いの渦の中、デュラの首がわずかに震えた。


「……今、声が……」


アレフが振り返ると、デュラの漆黒の甲冑が淡く光っていた。


「どうした、デュラ?」


「……我を呼ぶ声が、聞こえるのだ」


その声音には、いつもの冷徹さとは違う、どこか切実な響きがあった。

アレフたちは顔を見合わせ、黙って頷いた。


デュラはまるで何かに導かれるように、市場を外れた路地へと歩き出す。

薄暗い通り、錆びた配管、魔力の煙が漂う裏手――

彼が立ち止まった先にあったのは、無骨な鉄扉の建物だった。


「ここは……?」


「廃棄所ですな。壊れたり、欠陥のある魔導具を処分する場所でございます」


ジェームスが言うと、アスタロスが鼻を鳴らす。


「つまり、ゴミ捨て場か……」


その言葉に、デュラの瞳孔がかすかに震えた。


「……そうか。ならば、呼んだのは――」



腐蝕した鉄屑の山、砕けた魔導石、動かぬ魔導義肢、壊れた魔法通信機。

そのすべてが、かつて“人の夢”だったもの。

今はただの廃棄物にすぎない。


デュラはゆっくりとその山を掻き分けていく。

金属の軋む音が、彼の足音に重なった。


やがて、手が止まる。

錆びついた魔導銃――それは、まるで眠るように沈黙していた。


「……俺を呼んだのは、貴様か」


デュラの問いに、沈黙が返る。

だが、次の瞬間、淡い光が銃身から溢れた。


《同じ境遇にあったお前なら理解できるはずだ。頼む……俺をここから連れ出してくれ》


声は確かに、デュラの魂に届いた。

それは、かつての自分と同じ“廃棄された存在”の声。


デュラの頭部が、ゆっくりとその声の方を向いた。


「……かつて、我もそうであった。無用の烙印を押され、朽ち果てるはずだった」


アレフたちは言葉を失ってその光景を見つめる。

デュラは銃を手に取り、ゆっくりと胸元に掲げた。


「ならば、我が魂に刻もう。お前の未練、共に背負う」


その瞬間、魔導銃が眩い光を放ち、デュラの腕に吸い込まれるようにして消えた。


閃光。轟音。風圧。


アレフが目を細めて前を見ると、そこに立つデュラの右腕は――砲身と化していた。


誰も、しばらく言葉を発せなかった。

静寂だけが廃棄所を支配している。


「……おい、デュラ、それ……」


「……我にも分からぬ。だが、感じる。これは、“呼応”だ」


その声は重くも温かかった。

まるで、長い孤独の果てに得た友を確かめるように。


「……これは、“魔導砲銃”のようですな」


ジェームスが慎重に観察しながら呟いた。


「魔力を弾丸や砲弾として撃ち出す兵器。しかし……開発は難航していると聞いております」


「それが、デュラの旦那と融合した……ってことか?」


アスタロスが唸る。


ライカが恐る恐る近づき、砲身に触れようとしたそのとき――

砲身が淡く光り、まるで応えるように小さく脈打った。


「……あったかい」


ライカの目に涙が滲む。


「この子、泣いてる……」


デュラはその言葉に目を閉じた。


「泣くな。お前はもう、捨てられた器ではない。我らが共に歩む、魂の友よ」

次回タイトル:100話 オート・マタ《グリモワール》

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。