075話 傲慢の因子――拒絶の守護者キュロス 後編
「我は……全てを拒絶する者……我に届く攻撃など存在しない……!」
叫びながら、彼は地面に剣を突き立てた。
瞬間、塔全体が震え、瘴気が地面から噴き上がる。
まるで塔そのものが、守護者の肉体と一体化したようだった。
ライカたちは、天井を見上げる。
上空に、魔方陣の中心――ダンジョン・コアの輝きが見えた。
「今だ、全力で行きます!」
「おうよ!」
「任せるのじゃ!」
ライカのグリモワールが眩く光を放ち、
三人の魔力が一つに収束していく。
――氷の魔法陣、雷の紋、竜炎の竜環。
それぞれの属性が渦を巻き、中央に巨大な光柱を生み出した。
「合わせ技――」
ライカが詠唱を開始する。
声はまるで祈りのようであり、同時に呪いを祓う祝詞のようでもあった。
「氷竜雷覇――ッ!!」
天空を裂くような轟音。
氷槍の嵐が塔を貫き、雷撃がその中心を走る。
シノの竜気がそれを導き、雷竜が咆哮を上げながら守護者を直撃した。
傲慢の結界が発動する。
しかし、次の瞬間、その結界が悲鳴を上げた。
――防御が追いつかない。
打ち消すたびに消費した呪力が限界を超え、結界が歪み始める。
紅の宝石が亀裂を走らせ、瘴気が漏れ出した。
「う……おおおおおおおッッ!!」
守護者が叫ぶ。
結界が崩壊する。
そして――。
雷と氷の嵐が、全てを呑み込んだ。
数十秒の静寂。
塔の一部が崩れ落ち、粉塵が夜空に舞う。
「……やった、の……?」
ライカが肩で息をしながら呟く。
シノは竜気を解き、地に膝をついた。
アスタロスも戦斧を支えに、荒く息を吐いている。
その時だった。
崩れた瓦礫の中から、微かに声がした。
「……お前たち……が……救ってくれたのだな……ありがとう……」
見ると、守護者の鎧の中から、かつての“人”の顔が覗いていた。
その瞳には、確かな“理性”が戻っていた。
微笑と共に、男の身体は光の粒となって消えていく。
塔の中枢――紅の宝石もまた、静かに砕け散った。
ライカは目を伏せ、そっと祈りを捧げた。
次第に塔を覆っていた瘴気が晴れていく。
空に浮かんでいた魔方陣が消え、夜空が元の青を取り戻した。
「……終わったんだよ、ね?」
「……みたいだな」
アスタロスが立ち上がる。
彼の瞳は、遠くベレティックの南地区の中心に向いていた。
「兄貴たちの方も、片がついたようだぜ……」
数刻前まで禍々しい光を放っていた白銀の尖塔は、今やその姿が欠片も見えない。
ライカの顔に、安堵の色が浮かんだ。
「行こう、ライカ」
シノが差し出した手を、ライカは強く握り返した。
「うん!」
夜風が吹き抜ける。
塔の瓦礫の上に、三人の影が重なる。
彼女たちの瞳には、もう迷いはなかった。
北の塔は完全に崩壊し、残されたのは静寂だけ。
その静寂を裂くように、三人は街の方角へ駆け出した。
*
アレフたちは、轟音とともに、北の塔が崩れ落ちる様を目にしていた。
膨張していた瘴気は消え、代わりに澄みきった風が街を吹き抜ける。
かつて黒く染まっていた空は、ゆっくりと青を取り戻し、瓦礫の上に差す光はまるで“祝福”のようだった。
「……終わった、のか?」
アレフが呟く。
剣の切っ先が地面に落ち、乾いた音が響いた。
その隣で、デュラが天を仰ぐ。
「見ろ。……ダンジョン・コアが、完全に消滅してやがる」
彼の言葉通り、空に浮かんでいた黒い結晶は粉々に砕け、光の粒子となって消えていった。
「これで、北と南。両方の塔のコアを破壊したことになります」
ジェームスが肩の埃を払いながら言う。
アレフは小さく頷いた。
彼らの背後で、崩れた瓦礫の隙間から、街の人々が顔を出す。
恐怖に引き攣っていたその表情が、次第に安堵と希望に変わっていった。
「やった……」
「本当に終わったんだ……!」
歓声があがり、泣きながら抱き合う人々の姿があちこちで見られる。
「……守れた、のかもしれないな」
その光景を見つめながら、アレフは静かに呟いた。
次回タイトル:076話 聖なる悲劇




