073話 傲慢の守護者ーーセラドール
最上階。
聖光に包まれた広間の中央に、一人の騎士が跪いていた。
「……ようこそ、異端者ども」
その声は低く、だが確かな威厳を持っていた。
男は立ち上がり、兜を外す。
透き通るような金髪、青白い肌。
その瞳は、氷のように冷たかった。
「私はセラドール。聖浄の神殿・第一聖騎士団長にして――“傲慢の守護者”だ」
背に広がるのは、白銀の翼。
しかし、よく見ればその羽根の根元には黒い血管のような紋が走っていた。
「貴様らが街を穢した元凶か」
アレフが黒炎の刃を構える。
セラドールは微笑みながら答えた。
「穢した? 違う。浄化したのだ。人の欲、罪、異端。神は選別を望まれる」
「神の名を騙るな。救いの名で人を殺す、それがお前らの“浄化”か!」
激しい衝突の火花が散る。
セラドールの剣が振るわれた瞬間、純白の光が奔流となって広間を薙ぎ払った。
ジェームスの《パーフェクト・レシーブ》が即座に展開され、反射する。しかし、光はトレイごと焼き切った。
「っ……!」
「聖剣の浄化の光、呪力を焼き尽くす“神罰”か」
デュラの瘴気壁も霧散する。
アレフは歯を食いしばり、“強欲”の鎖を魔剣に巻き付けた。
「だったら――奪ってやるよ」
二つの呪いを合わせることで、呪力以外の力を喰らえる“新たな呪い”へと進化させる。
「技能喰い(スキルイーター)・簒奪の一閃!!」
セラドールの浄化の光とアレフの膨大な呪力とがせめぎ合う。
やがて、決着の時ーー
軍配はアレフに上がった。
《グラトニー》と《グリード》が唸りを上げ、白光を吸い込んでいく。
その瞬間、聖なる光は黒く染まり、剣身の中で消えた。
(単なる思いつきだったが……これなら……奪える!)
アレフは奪った浄化の力を逆に纏わせ、《黒焔斬》を叩き込む。
セラドールの鎧に亀裂が走る。
「なるほど、貴様の剣……呪い以外も喰らえるのか」
セラドールは冷笑した。
「だが、神の力はこんなものではない!」
翼が広がり、光が収束する。
天井を突き破るほどの光柱――《神罰・アルメリア》が放たれた。
アレフたちは防御に回る。
《幻夢ーロイヤル・ティーブレイク!》
ジェームスが紅茶の霧で幻像を生む。
デュラが《瘴獄結界》でその隙を作り出す。
アレフは一気に間合いを詰めた。
黒炎が閃く――だが弾かれる。
光の壁。
《……“反射結界”。欠片とはいえ、傲慢の力を使いこなしている》
プライドが低く呟いた。
セラドールの翼が黒く染まる。
その顔には、もはや理性の欠片もなかった。
「我こそ神の代理。選ばれし者に裁きを――!」
《ディヴァイン・リフレクション》
その名の通り、あらゆる攻撃を跳ね返す絶対防御。
「……チートすぎるだろ……」
アレフが息を吐く。
《だが、理屈はある。反射とは“同等の力”で返す行為。ならば、力の性質を奪えば、返すものも消える》
「……なるほどな。やってみる価値はある」
アレフの瞳に炎が宿る。
《グラトニー》と《グリード》が再び浄化の光を喰らい、同時に《プライド》の呪力が共鳴する。
《奪い、喰らえ。そして誇れ。我が名は“傲慢”。お前はその継承者だ、アレフ・カース》
アレフの身体に黒と白の光が同時に宿った。
“奪った浄化”と“傲慢の反射”ーーその二つを重ね合わせる理論。
「ーー反射を、奪って、反転させる!」
黒炎が渦を巻き、刃が閃く。
《黒炎渦・終焉の一閃》!
衝突した瞬間、反射された黒炎は聖光となってアレフに跳ね返る――が、奪った“浄化”の性質がそれを吸収した。
そして、吸収した聖光が逆流する。
「な……バカな……!? 我が反射が……崩れる……!」
セラドールの翼が砕け、鎧がひび割れる。
光と闇の爆発が塔を揺るがした。
静寂が訪れた。
セラドールは膝をつき、血に濡れた手を見つめる。
その瞳に、一瞬だけ、人の色が戻る。
「……神に……縋りたかったのは、我だったか……」
そのまま、微笑みを残して崩れ落ちた。
背の黒翼が灰となり、消えていく。
床の中央――光る球体が浮かんでいた。
ーーダンジョン・コア
アレフはゆっくりと歩み寄り、グラトニーを突き立てた。
「……終わりだ」
魔剣が唸り、コアの呪力を喰らう。
塔全体が震え、外壁が音を立てて崩れ始めた。
「退くぞ!」
ジェームスが叫ぶ。
デュラがアレフを抱え、黒馬が階段を駆け下りる。
天井が落ち、光が弾ける。
――そして、爆音。
外に出た瞬間、南の塔が光に包まれ、ゆっくりと崩れ落ちていった。
空に昇る瘴気が、少しずつ晴れていく。
アレフは息を整え、崩れゆく塔を見つめた。
「これで……一つは終わり、か」
しかし、次の瞬間。
遠く北の空――もう一つの塔が、紅く輝いた。
瘴気が再び渦を巻き、空気が震える。
まるで、何かが目覚めるように。
アレフはゆっくりと呟いた。
「……あいつらを信じて待つだけだ」
黒炎が、静かに揺らめいた。
次回タイトル:074話 傲慢の因子――拒絶の守護者キュロス 前編




