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万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


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068話 S ランクの断罪者

「……同じことを繰り返す気か?」


その冷たい視線に、アレフは一歩も退かずに答えた。


「繰り返させないために戦ってる。

聖浄の神殿が切り捨てた“異端者”を守るためにな」


「……へぇ」


リシェルの瞳に、わずかに興味の色が宿った。

だが、それも一瞬のことだった。

再び彼女は無感情な顔に戻り、剣を構える。


「残念だが、そういう綺麗事には付き合えない」


再び戦いが始まった。

アレフはグリードの力で彼女の一撃を受け流しつつ、距離を取る。

アスタロスが壁を蹴って背後を取ろうとするが、リシェルは微かに動いただけでかわした。


「速ぇッ……! こいつ、見えてやがる!」


「視界じゃない。“感覚”だ!」


アレフが呟く。


「戦い慣れしてる。まるで剣が生きてるみたいだ」


「その通り」


リシェルの声が返る。

“灰域流剣術”――それは、殺気を感じ取り、殺意を刃とする流派。


「なら……!」


アレフが叫び、再びグリードを発動。

だが今度は呪いの鎖ではく、奪う呪いを黒炎に溶け込ませる。

そして、奪取対象を“スキル”ではなく、“剣の軌跡”そのものに向けた。

黒炎が爆ぜ、リシェルの動きが一瞬だけ止まる。


「……ッ!」


「今だ、グラトニー!!」


暴食の魔剣が唸りを上げる。

呪力を喰らう黒き刃が、リシェルに迫った。


だが――それでも届かなかった。


音もなく、リシェルの姿が消える。

次の瞬間、アレフの背後に現れ、彼の肩口に刃を押し当てていた。


「いい動きだ。でも甘い!」


アレフが呻き声を上げ、片膝をつく。


「アレフ様ッ!?」


ジェームスが焦って駆け寄ろうとするが、すぐに剣が彼の喉元を制した。


「動くな。次は頸動脈を断つ……」


静かな声音。

だが、その圧は死神のように冷たかった。


(あのジェームスが何もさせてもらえんとはの……!?)


シノが驚愕する。


そのときだった。

強い風が吹き抜け、ライカとシノの頭を覆っていたフードが弾かれた。


ライカの尖った耳が露わになり、光を反射する。

シノの竜角が月光に煌めいた。


ハーフエルフと竜人。

神殿が“異端”と定めた種族。


リシェルの瞳が一瞬だけ揺らぐ。


「……ハーフエルフ……竜人……?

聖浄の神殿の者が、そんな連中と行動を共にするわけがない……」


剣先が、わずかに下がる。

アレフはその隙を逃さず、静かに息を吐いた。


「ようやく、信じてくれたかよ」


「誤解が解けた、ってだけだ」


リシェルの声は低く、まだ油断の色を見せない。


「どのみち――呪われた神器を四つも所持する人間を、放っておくわけにはいかない……」


アレフが目を細める。

リシェルの剣が再び構えられた。


夜風が鳴る。

その音が、決闘の合図のように響いた。


アレフは魔剣を構え、アスタロスが息を整える。

ライカが詠唱を始めるが、心はすでに限界に近い。


――Sランク冒険者。

力の差は明白だった。

勝てない。それは誰の目にも分かっていた。


それでも、アレフは下がらなかった。

ほんの一歩でも、この理不尽を正すために。


リシェルが息を吐き、刃を水平に構える。

その姿勢は完璧な殺意の型――。


しかし、そのとき。

リシェルは、ふと剣を下ろした。


「……始末する前に、ひとつだけ聞かせな」


アレフが眉をひそめる。

リシェルの目は、獣のように鋭く、同時にどこか寂しげでもあった。


「――きさまは、何のために呪われた神器《大罪シリーズ》を欲する? あんだろ? “異端者を守るため”以外の目的がよ……」


その問いが、静寂を切り裂いた。

夜の廃都に、風の音だけが残る。


アレフの胸がわずかに揺れる。

仲間たちが息を呑む中、アレフは短く息を吐き――そして、笑った。


「……最強になるためだ」


静寂。

風の音だけが流れた。


「最強になって、どうする?」


リシェルの声には皮肉も侮蔑もない。純粋な問いだった。


「……災厄の魔女をぶっ倒して、俺にかけられた“不幸体質”の呪いを解く!」


リシェルが目を細める。


「ふぅん……あの災厄の魔女を倒す、ねぇ。たいそうな名目じゃないか。

で、その後は?」


「……その後?」


アレフが一瞬、言葉を詰まらせ――そして、顔を赤くして叫んだ。


「そ、そんなもん決まってるだろ! 最強になれば……お、女の子にちやほやされんだろ!?

そしたら、か、彼女とかできたりしてさ……! あんなことやこんなこととか、いろいろ出来たりなんかして……!」


「……」


仲間たちの表情が一斉に固まった。

アスタロスが口をぱくぱくとさせ、ライカは耳まで真っ赤にし、シノは尻尾をピタリと止める。

デュラは全く興味がないといった様子だ。

ジェームスだけが、

「……ご立派な目標でございます、アレフ様」と呟いた。


次の瞬間――


「ぶあぁっはっはっはっ!!!」


リシェルが腹を抱えて笑い出した。


「最強になって、ちやほや……か、彼女……! ぷっ……あはははっ、く、苦しい! 私を笑い殺す気かよ!」


「わ、笑うんじゃねぇ!!」


アレフが顔を真っ赤にして叫ぶ。


リシェルは涙を拭いながら、なおも笑い続けた。

やがて、ふっと笑いを収め、まっすぐにアレフを見据える。


「……いいだろう。お前にチャンスをくれてやる」


「……チャンスだと?」


アレフが眉をひそめる。


リシェルは無造作に地面から、“傲慢の鎧”を拾い上げた。

鎧は黒紫の光を帯び、空気を震わせるように禍々しい気配を放っていた。


「……こいつを喰らえ」


彼女は、それをアレフに放り投げた。


アレフは反射的に受け取るが、その瞬間、全身に冷たい悪意が走る。


「そいつを喰らっても、まだお前が正気でいられたのなら見逃してやる。

だが――呪いに取り込まれたその時は……」


リシェルの瞳が鋭く光る。


「私が、お前を斬る!」


その言葉は、挑発でも脅しでもなかった。

ただの“宣告”――Sランク冒険者の誇りとしての、覚悟だった。


アレフは鎧を見つめ、唾を呑み込む。

背後で仲間たちが叫ぶ。


「アレフお兄ちゃん! やめて! まだ――!」


そして、その時、アレフの脳裏に甘い声が響いた。


――抗うな。欲望を、開放しろーー


「……色欲の声……か」


アレフは苦笑し、ゆっくりと息を吐いた。


「……いいぜ。どうせ、最初からそのつもりだったんだ」


魔剣を握る手に力がこもる。

彼の覚悟が自然とそうさせていたのだった。

次回タイトル:069話 傲慢を喰らう者

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