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万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


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065話 奪われた傲慢、創られた神

「……ここが“傲慢”の眠っている場所、か」


神殿の地下に降りたアレフたちは、空間の広大さにも驚いたが、何よりも、その空間が外と変わらないほど明るかったことに唖然とした。

光を灯すことなく、聖堂跡がはっきりと見てとれる。


アレフは聖堂の岩壁に刻まれた古い文字をなぞりながら、低く呟いた。


「“フォルティス聖堂――カストルム神の代理人、セラフィエルの名において建てられた”……って」


グリモワールの言葉をライカが口にする。


「堕天の天使セラフィエル。名残があるということは、まだ何かがここに……」


ジェームスが警戒の目を向ける。


「嫌な気配がします……まるで誰かに見下ろされてるような」


アレフは頷き、剣を構えた。


「入ろう。傲慢はこの中だ」


フォルティスの聖堂跡は、かつての栄光を思わせる荘厳さをまだ保っていた。

天井の半分は崩れ、光が差し込むたびに、粉塵が光の粒となって宙を舞う。

だが、その光の中には黒い靄が漂い、聖なる空気を蝕んでいた。


「……聖堂のはずなのに、空気が濁ってる」


《“傲慢”の呪気のせいだろう》


アレフの背に提げられた暴食の魔剣が答える。


《傲慢の呪いの力は反転。絶対的な呪気の力で全ての攻撃を弾き返す。その傲慢な呪気が聖性そのものを反転させたのだ》


奥へ進むと、巨大な祭壇の前に“人影”が立っていた。


背中からは折れかけた翼。

全身を覆う白銀の鎧。

だが、その鎧の継ぎ目からは、黒い瘴気が滲み出している。


「来たか、異界の徒」


声は低く、それでいて凛としていた。


アレフは一歩進み出る。


「……お前が、この聖堂の守護者か」


「我はセラフィエル。かつて天を護りし者。だが今は……神に捨てられ、己を神と知った者」


その瞬間、黒い翼が大きく広がる。


聖なる光が、地を焦がした。


一閃。


セラフィエルの槍が空を裂き、光の槍が矢のように無数に放たれた。


「防御結界!」


ライカの詠唱と同時に、黄金の障壁が展開する。だが、槍が突き刺さるたびに結界が軋む。


「力が……違う!」


ライカが苦悶の表情を浮かべる。


破衝烈斬(クラッシュ・バースト)!!」


アスタロスが戦斧を構え、空中へと跳び上がり、そのまま地面に叩きつける。


だがその瞬間、予期せぬことが起こった。


戦斧を地面に叩きつけることで衝撃波が発生するはずだった。

しかし、戦斧が地面に叩きつけられた瞬間発生したのは、大量の水。


「なんじゃこりゃあぁぁ……!?」


戦斧の刃から青白い水の奔流が噴き出し、斧の軌道に沿って巨大な水刃となって天使の翼と衝突する。


アスタロスは、この時になってようやくザーバラのオアシスで見た夢が夢でなかったと気が付いた。


セラフィエルの目が細まる。


「水の精霊の加護を宿した戦斧か……小賢しい」


一瞬で間合いを詰め、槍を薙ぐ。


衝撃波が地を裂き、アスタロスが転がるように避けた。


「あぶなっ……!? けど、動きが直線的だぜ!」


アスタロスが放った一閃がセラフィエルの背をかすめる。


「ーーっ、貴様ごときが……我を侮るか!」


怒号とともに、セラフィエルの体から黒い炎が噴き上がる。

それは“傲慢”そのものの魔力。


セラフィエルは再び槍を薙いだ。

聖光が奔る。


堕天の天使セラフィエルが放つ槍の軌跡は、まるで光そのものが意思を持ったかのように宙を舞い、アレフたちを包み込んだ。


「避けろ!」


アレフの声と同時に、眩い光が炸裂。

地を抉る光の刃が、残響のように空を焼いた。


「……っ、速い!」


デュラが後方に跳び、盾で防ぎながら回避する。


「まるで予知されてるみたいだ!」


「予知ではない」


セラフィエルの声が響く。


「神の加護のもと、我はすべての“因果”を見通す」


その瞬間、光翼が広がった。

翼の一振りで、空間ごと歪む。

“神速の領域”ーー時間の流れさえ歪ませる力。


アレフは額に汗を浮かべながら、叫んだ。


「……これが、“傲慢”に堕ちた天使の力か」


「ならば、俺も――貪らせてもらう」


彼の左手に、黒い紋が浮かび上がった。

“強欲の指輪グリード”が淡く輝き、呪いの光が螺旋を描く。


「頼むぜ、グリード――ッ!!」


《……主の命に従う》


アレフは光を睨みつける。


「奪わせてもらう。お前の力!」


指輪の中心から、黒い鎖が迸った。

それは空間を貫き、セラフィエルの胸元に突き刺さる。


「……何だ、これは!」


「“呪縛の契約”――」


鎖が光を吸い込み、セラフィエルの翼が一瞬だけ黒く染まる。


アレフの瞳に、光の紋章が浮かび上がった。


「奪った……“光翼”の術式!」


背中から眩い光の翼が生える。

堕天の天使のものとは違い、純粋な輝きを放つ“模倣の翼”だった。


「まさか……人間が、我が力を……!」


セラフィエルの驚愕をよそに、アレフは一気に加速した。

その速さは、光を追い抜く。


「これが……お前の領域、“神速”か!」


彼は宙を翔け、魔剣を構える。


「なら、返してもらうぞ。お前の“傲慢”ごと!」


模倣することで獲得した魔力が魔剣に収束し、奪った光翼のエネルギーが渦を巻く。


「ルクス・ドレイン!!」


光が爆ぜ、セラフィエルの槍が砕けた。


天井から降る光の粒子の中で、堕天の天使は跪いた。


「……その手で……神の力をも喰らうか。」


「強欲は止まらない。」


アレフが答える。


「だが、その欲を、守るために使うなら――罪じゃない。」


セラフィエルの瞳が微かに和らいだ。


「ならば……人の子よ。お前が“傲慢”の後を継ぐ資格を持つか、見届けよう……」


そう告げると、彼の身体は光となって崩れ、静かに消滅していった。


アレフの左手の指輪が淡く赤く染まり、煙のように熱を帯びる。


「……くっ、やはり呪力の消耗が激しい……」


「アレフ様!」


ジェームスが駆け寄り、彼の手を握る。


「大丈夫だ。まだ……立てる。」


指輪の輝きは、まるで生きているかのように脈打っていた。


奪った光は、まだ彼の中で燃えていた。


「……やったのか?」


荒い息を吐きながら、アスタロスが辺りを見回す。

だが、彼の視線の先ーー祭壇に安置されていたはずの“傲慢”の鎧は、すでに影も形もなかった。


「……ない。兄貴!鎧が、消えてる……!?」


アスタロスが青ざめた声を上げる。


その瞬間、広間の空間が歪み、黒い霧が渦を巻いた。

耳障りな共鳴音とともに、かつて色欲のダンジョンで見た黒衣の男ーー“監視者”バルバドスが、再び姿を現した。


「ふむ……さすがだな。強欲の指輪を使いこなすとは。やはり、お前はあの方が期待通りの存在だ、アレフ」


「……監視者、バルバドス……。またお前か」


アレフが警戒の目を向ける中、バルバドスは口の端を歪めて笑った。


「驚いたか? お前たちが倒したセラフィエルは、真の守護者ではない。私が“試し”として用意した模造の天使に過ぎん。」


「……は?」


アスタロスが唖然とした声を上げる。


バルバドスは指先で虚空をなぞりながら、淡々と続けた。


「真の守護者は倒され、“傲慢”の鎧も、すでに“聖浄の神殿”の者どもが手にした。

奴らは神器の力を利用し、ベレティックにとって良からぬ企みを進めている」


「聖浄の神殿のやつらが……? でも、神器の眠る場所ってのは、兄貴の魔剣みたいに呪力を感知できなきゃ辿り着けねぇんじゃねぇのか?」


アスタロスの疑問に、アレフも頷いた。


「ああ、その通りだ。つまり、神殿の中に……強力な呪具を扱えるほどの“呪力持ち”がいるってことだ。」


「フッ……察しが早いな」


バルバドスは肩をすくめ、軽く笑った。


「偶然辿り着いた者がいたとしても、Sランク以上の者でなければ神器の呪いには抗えぬ。

お前たちが“呪われた神器”を手に入れても噂ひとつ立たなかったのは、そうした理屈があるからだ」


「よく言うぜ……どうせ裏で、お前ら“監視者”が動いていたんだろ?」


アレフの瞳が鋭く細められる。

しかし、バルバドスはその問いには答えず、ただ静かに笑みを浮かべた。


「聖浄の神殿の者どもは“傲慢”の呪いを解析し、その因子を抜き取った。

奴らは今、その力を用いて“人工のダンジョン・コア”を完成させようとしている。」


「人工の……ダンジョン・コアだと?」


(そんなことが、本当に可能なのか……!?)

アレフが息を呑む。


「この世界に存在しなかった、異質なる“神の複製”だ」


バルバドスの言葉は、まるで死刑宣告のように重く響いた。


アレフは拳を握り締めた。


「……放ってはおけないな。ベレティックを狙うってんなら、止めてやる。」


「フッ……それでいい」


バルバドスは、黒い霧の中にゆっくりと姿を溶かしていく。


「次に会う時、お前がどこまで“集めた神器”を使いこなせるか、楽しみにしているぞ」


彼の姿が完全に消えた後も、重苦しい沈黙がその場を支配していた。


やがてアレフはゆっくりと立ち上がり、指輪を見つめながら呟いた。


「行こう。傲慢の神器を奪った奴を追う」


その決意の裏で、神殿がすでに“傲慢”の呪いから新たな災厄を生み出していることをーー


この時、誰も知る由はなかった。

次回タイトル:066話 呪いに支配されし者

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