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万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


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058話 勝者の代償と、少女の光

細道に差しかかった瞬間、夜の静寂が破られた。


月明かりに浮かび上がるのは、ずらりと並ぶ男たちの影。


粗野な衣服に身を包み、腰には短剣や棍棒を提げ、目は獲物を射抜く獣のようにぎらついていた。


「……やっぱり出やがったな」


アスタロスが肩を回し、闇を睨む。


「なるほど、これが“勝ち過ぎた代償”というやつですか」


ジェームスが冷ややかに呟く。


リーダー格と思しき男が前へ進み出た。


「いい勝ちっぷりだったじゃねえか、坊主ども。だがな――ここで稼いだ分は全部、置いていってもらうぜ」


後ろからも気配。


退路を塞ぐように別の一団が現れ、完全に袋の鼠にされた形となる。


「数は……二十といったところか」


デュラが冷静に戦況を把握する。


「兄貴の読み通りだったな」


アレフは微動だにせず、薄く笑っただけだった。


「……思った通り、不幸体質が発動しやがったな」


「なにを言っている?」


リーダーの男が目を細める。


「カジノで一儲けしたまま何事もなく帰宅……なんて、そんなに上手くにいった試し、今までにねぇからな」


アレフは肩を竦めるも、その瞳は闇に光り、呪力がわずかに滲み出る。


最初に動いたのはジェームスだった。


音もなく素早い動きで敵の懐に入り込み、棍棒を振り上げた賊の腕を片手で掴む。


そのまま肩越しに放り投げ、石畳に叩きつける。


「教育的指導ですッ!」


骨の砕ける音が夜に響く。


シノも負けじと、しなやかな動作で敵の喉元に竜尾を突き入れた。


続けてジェームスは冷静に後方へ下がり、フォークを取り出す。


「……街中で派手に暴れるわけにはいきませんからな」


彼の眼は相手の癖や動きを読み取り、フォークは寸分違わず急所を掠める。


ライカは恐怖に震えながらも魔導書を握った。


だがアレフが首を横に振り、彼女を庇うように前へ出る。


「お前は動くな。……これは俺の計算の内だ」


アレフが踏み込むと同時に、憤怒の手甲から黒炎が滲み出る。


陽炎のように揺らめく炎を纏った手刀の一閃ーー


迫る賊の武器を真っ二つに斬り裂いた。


「ひ、ひいいッ!」


怯んだ男たちは後ずさる。


魔力感知には引っ掛からぬ、呪力の圧倒的な存在感――彼らの本能がそれを「異質」として察していた。


「お、お前ら……一体何者だ!」


リーダーの声が震える。


「ただの博打打ちだよ」


アレフは冷然と返し、血に濡れた手甲を払った。


退路を塞ぐ敵が突撃してくる。

だがその瞬間、ジェームスが霧状の紅茶を散布する。


「幻夢ーロイヤル・ティーブレイク!!」


その香りで眠りに誘う


「な、なんだ! 急に眠気が……!」


賊たちは必死に眠気に抗おうとする。


その隙を逃さず、アスタロスとシノが猛然と突撃。敵陣を切り裂き、蹂躙する。


「終わりだ」


アレフは最後に残ったリーダーの首筋へ魔剣を突きつけた。


「ま、待て……! 金は、やる……!」


「いらん。――ただし、一つ覚えておけ。俺に楯突いたことを、後悔しながら生きろ」


刃が肌を掠め、血が一筋流れる。リーダーは震え上がり、命乞いのまま地に崩れ落ちた。


アレフは刃を払って背を向ける。

仲間たちも呼吸を整え、誰一人欠けることなく戦いを終えていた。



そして迎えた 競売三日目の朝。

昨日の闇ギルド撃退戦の影響は、外面上は何もなかったかのように隠蔽されている。


しかし、空気の張り詰め方は明らかに異常だった。

 

ヴァイス商会の巨大な競売場には、街中の富豪や商人、貴族までもが集まっていた。


煌びやかな装飾、舞台に並ぶ豪奢な品々。


武具、防具、希少な魔道具、そして――奴隷。


アレフたちは群衆に紛れ、冷ややかな眼差しで舞台を見上げていた。


「……いた」


シノが低く呟く。


舞台の隅、鉄格子の中に並べられた奴隷たち。


その中に、怯えた瞳をした幼いハーフエルフの少女の姿があった。


細い体、痩せた頬、しかし尖った耳と翠の瞳が、彼女がエルフの血を引くことを示していた。


アレフの拳が音を立てて握りしめられる。


「……絶対に、あの子は俺が守る」


進行役の拍子木が鳴らされ、いよいよ目玉の競売が始まる。


競売は淡々と進んでいき、魔獣、宝飾品、禁制品……。

次々と落札され、札束が飛び交う。


やがて――


「――次なる出品物は、特別な存在。

 古の血を引く希少種……ハーフエルフの少女でございます!」


競売人が高らかに叫び、格子の扉が開かれた。


引きずり出されるように、ハーフエルフの少女が舞台へ立たされる。


「珍しいぞ! エルフと人との混血、まだ十にも満たぬ忌み子の少女だ! その魔力の素質は未知数――将来の価値は計り知れん!」


ざわめきが走る。


貴族たちの目がいやらしく輝き、商人たちは口々に囁き合った。


「開札は五十万ルクから!」


怒りがアレフの胸を焦がす。


だが同時に冷静な思考も働いていた。


ーー資金は十分にある。


昨夜の大勝負で得た莫大な金。


全ては、この瞬間のためにあった。


「六十万!」


最初の声が上がる。


「七十万!」「八十万!」


競りは瞬く間に熱を帯びていく。


舞台の少女は怯え、震えながら視線を彷徨わせていた。


「百万!」


ある貴族が高らかに叫ぶ。会場がざわめく。


だが、次の瞬間。


「――三百万!!」


アレフの声が響いた。


その瞬間、会場の空気が凍った。


誰もが息を呑み、動きを止める。


常識を遥かに超える額を即座に提示するということは、資金力と覚悟を同時に示す行為。


下手に競れば、己の身が危うくなるーー

そう悟らせる強烈な一撃だった。


場内の視線が一斉に彼へ注がれる。


その眼差しは驚き、好奇、そして敵意を孕んでいた。


アレフは動じない。


ただ真っ直ぐに少女を見据えていた。


彼の眼差しに気づいた少女の瞳が、一瞬だけ揺れた。


「……!」


その小さな瞳に、かすかな希望の光が宿った。


「くっ……!」


数名が舌打ちをし、札を下ろす。


進行役の声が響いた。


「――落札! ハーフエルフの少女は、この御方に!」


競売終了後。

裏手の部屋で、アレフたちは少女と対面した。


護衛が鎖を外すと、少女は怯えた様子で身を縮めた。


しかしアレフの瞳と合った瞬間、わずかに震えが止まる。


「怖がらなくていい。ここには、お前を蔑むやつはいない」


彼は穏やかに言い、手を差し伸べた。


少女は一瞬ためらった。


だが、ゆっくりと彼の手に触れる。


冷たく小さな掌が、かすかに震えていた。


「……ありがとう、ございます」


か細い声が、ようやく響いた。

その瞳に、初めて光が宿る。


ライカが微笑み、そっと少女の背を撫でた。


「大丈夫だよ。もう自由だから」


シノも顔を覗き込み、朗らかな笑みを向ける。


「一緒に行こう!」


少女は小さく頷いた。


その表情はまだ怯えの残るものだったが、確かに希望の色が混じり始めていた。


その後。


裏カジノを後にしたアルジェたちは、人通りの少ない路地を歩いていた。


少女の名はミーシャ。


星明かりに照らされたミーシャは、ようやく周囲を見回す余裕を取り戻していた。


アレフは空を見上げ、深く息を吐く。


「……ひとまずは救い出せた。だが、これで終わりじゃない」


彼の呟きに、ジェームスが頷く。


「ええ。闇ギルドは根を張っている。今日の勝利は、その一端を崩したに過ぎないでしょうな」


ライカはミーシャの手を握り、笑顔で言った。


「でも、今はこれでいいんだよ。だって一人、ちゃんと助けられたんだから!」


ミーシャはその言葉に目を瞬かせ、やがて小さく微笑んだ。


震える肩が、わずかに解けていく。


アレフはその様子を見つめ、わずかに笑みをこぼす。


夜風が吹き抜ける中、

遠くの街灯が、次なる冒険の始まりを予感させるかのように揺れていた。

次回タイトル:059話 呪法浄化計画

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