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万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


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056話 競売

ザナドゥに入ってから数日、アレフたちは街の大通りや裏路地を行き来しながら、強欲のダンジョンや“呪具”に関する情報をかき集めていた。


この街では金こそが力であり、欲望こそが通貨であった。


市場の一角で叫ぶ商人の声は絶えず、豪奢な商館の奥では密やかな取引が交わされ、裏通りでは血の匂いを孕んだ殺し合いの影が蠢いていた。


「情報が錯綜しているな……」


アレフは、昼下がりの酒場で手元の紙片を広げる。


そこには「強欲のダンジョン」「ヴァイス商会」「競売」といった言葉が乱雑に書き込まれていた。


「ヴァイス商会というのは、ここザナドゥで一番の商会で、業種を問わず、街に出店されてるものの多くにヴァイス商会の息がかかっているようですな」


ジェームスが低い声で囁く。


「しかも、ただの商売ではなく。裏の顔は……奴隷や呪具の取引なんかも牛耳っている……という話です」


「呪具だと?」


アレフが顔を上げる。胸の奥で、グラトニーがわずかにざわめいた。


「はい。しかも明日から開催される、ヴァイス商会主催の競売で“珍しい品”が出ると、もっぱらの噂です。ひょっとしたら、呪具かもしれませぬな」


ジェームスが唇を歪め、目を細める。


「……競売か」


アレフは興味を抑えきれなかった。


呪具が絡んでいるならば見逃せない。彼の胸に、一つの決意が生まれる。


「行ってみよう。まずは様子を確かめるだけだ」



ヴァイス商会の競売 ― 一日目


三日間にわたる大規模な競売の一日目。


街の中央にそびえるヴァイス商会の建物は、白大理石で築かれ、黄金の装飾で眩く光り輝いていた。


門前には長蛇の列。

金持ちの商人、武具を携えた冒険者、絹を纏った貴婦人、目に見えて地位の高い者ばかりが集まっていた。


「こりゃ……派手だな」


アスタロスは大あくびをしつつも、口の端を引き上げる。


「ただの競り合いだと思ってたが、こりゃ見ものだぜ」


一行が入場すると、広大なホールが広がっていた。


豪奢なシャンデリアが天井から下がり、赤い絨毯が壇上へと続く。


すでに多くの観客が席に座り、ざわめきが波のように広がっている。


やがて鐘の音が鳴り響き、黒服の商人たちが次々と競売品を壇上へと運んだ。


最初は宝石。次に希少金属。そして高級品の数々。


価格が釣り上げられるたびに金貨の山が積み上がり、落札された品は笑顔の貴族たちへと渡っていった。


だが、次に壇上に引き出されたのは――檻に入れられた魔物だった。


牙を剥き、鎖を引きちぎろうと暴れる獣。


その光景に観客は歓声を上げ、値段は跳ね上がっていく。


やがてその獣が落札されると、さらに檻が運ばれてきた。


中には人間がいた。痩せた男、打ち捨てられた女、首に隷属の首輪をつけられた者たち。


「……ひどい」


ライカの声が震える。


「まさか人間まで……競売の商品とはな……!」


アレフの拳が震えた。


分かっていた。ザナドゥが富と欲望の坩堝である以上、こうした闇が存在することは。


だが、実際に目の当たりにすると怒りが抑えきれなかった。


そしてーー

一行の視線が釘付けになる。


壇上に引き立てられてきたのは、まだ幼い少女だった。


尖った耳と、翡翠色の瞳。幼いハーフエルフ。


痩せ細った体に粗末な布を纏い、それでも誇りを失わぬ眼差しをしていた。


「……“珍しい品”とは、彼女のことだったようですな」


ジェームスが目を細め、少女を見つめる。


「……!」


アレフの胸が熱くなり、立ち上がりかけるも、ライカが隣で彼の手を引いた。


悔しさのあまり、いまにも噛みちぎってしまいそうなほど強く唇を噛むライカ。


同じハーフエルフの彼女にとって、他人事ではいられないはずだった。


それでも、自分を引き止めた彼女の気持ちを無下にするわけにはいかない。


(ここで問題を起こすわけにはいかねぇよな……)


「わるい……ライカ。ちょっと頭に血がのぼっちまった」


ライカの気持ちを考えると、余計に怒りが込み上げるアレフだったが、シノの言葉が彼の理性を引き戻した。


「あの少女……三日目の目玉商品として競売にかけられる予定そうじゃ」


壇上の商人が冷酷に告げる。


「ハーフエルフはその魔力の高さから災厄をもたらす存在として忌み嫌われてますが、こうして隷属の首輪で手懐けてしまえば、これほど使い勝手の良い道具はございません。希少なハーフエルフの血を引く少女。この機会をお見逃しなく……」


観客席からはざわめきが広がり、値を見積もる声が飛び交った。


アレフの視界が赤く染まる。


「……絶対に、俺が落とす」


低い声でアレフは言った。


しかし、アレフがハーフエルフの少女を救うと決意したものの、大きな問題があった。


三日目までに資金を用意しなければならない。


だが一行の持ち金は限られている。


呪具や旅の準備で散財してきた今、競売で勝ち抜くには到底足りなかった。


「どうするのじゃ……?」


シノが苦い顔をする。


「金の力が全てのこの街じゃ、資金がなけりゃ話にならねぇぞ」と、アスタロス。


沈黙が広がる中、アレフはふと記憶を掘り返した。


砂漠の旅路で聞いた、大商人ファティマの言葉ーー


『ザナドゥには、闇ギルドが仕切る裏カジノがある。金を増やしたきゃ、そこへ行くといい。だが……命を張る覚悟が必要だ』


その言葉を思い出し、アレフの口元にニヤリと笑みが浮かぶ。


「……カジノ」


「何じゃと……!? 今、カジノの言うたかや?」


シノの表情があからさまに輝いた。


「おいおい、本気か?兄貴……あそこはイカサマと暴力が支配する場所だって聞いたぜ。下手をすりゃ身ぐるみ剥がされて砂漠に捨てられるっな。まぁ、面白そうではあるけどよ」


「イカサマか……むしろ望むところだ」


アレフは目を細め、力強く言う。


「勝つのは俺だ。あの子のためだけじゃねえ……仲間のためなら命を張る価値はある」


そう言うと、アレフはライカの頭をなでまわす。


ライカが一瞬だけ目を見開き、そして静かに頷いた。


「うん……ありがとう。アレフお兄ちゃん……」


「マジで面白くなってきたじゃねぇか」


アスタロスはにやりと笑い、戦斧を背負い直した。


「この拳と斧で、運試しってやつだ」


「本当に……よろしいのですね?」


ジェームスは肩をすくめつつも、タキシードを整え直す。


「ひゃっほーっ! 賭け事なぞ一生縁がないと思うとったが……なんぞ、ワクワクしてきたのぉ!」


姫という立場上、娯楽に接する機会が少なかったのだろう……

本来の目的を忘れたのではないかと心配になるほど、キラキラと目を輝かせるシノだった。


こうして一行は決意した。


三日目の競売ーー


ハーフエルフの少女を救うため。


資金を得るため、命を賭けて裏カジノへ挑む。


黄金と欲望の街ザナドゥ。


光と闇が交錯するその中心で、一人の少女の命運を賭けた戦いが幕を開けようとしていた。

次回タイトル:057話 裏カジノ

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