047話 死霊王の間
怨霊の群れを退けたアレフたちは、ピラミッドの奥へと足を進めた。
通路は複雑に折り重なり、幾度も分岐と死路を繰り返す。
壁面には封印術式の名残や、過去に挑んだ冒険者たちの残骸が散らばっていた。
「……まるで迷路のようですな」
ジェームスが吐息を漏らす。
途中、魔法陣に仕掛けられた呪いの罠が発動し、瘴気の炎が通路を覆ったが、ライカの氷魔法が火を鎮めることで突破できた。
さらに奥では、半透明の巨兵が立ち塞がった。
だが、アレフが囮となり、ジェームスが《エレガント・アイ》で弱点を炙り出すことで討ち破る。
数々の仕掛けを越え、ついに彼らは巨大な石扉の前に立った。
刻まれた紋章は、冥府の王を象徴するもの。
扉の隙間からは、骨の軋むような響きが漏れ出している。
「……ここだな」
アレフが剣を握り直し、仲間たちへ視線を巡らせる。
それに応えるように、皆が無言で頷く。
重々しい扉を押し開けると――そこには闇に沈む広間と、中央に鎮座する漆黒の玉座があった。
玉座に腰掛けるのは、朽ちた衣を纏い、虚ろな炎を灯す骸骨の王。
死霊王リッチが、彼らを見下ろしていた。
「……また来たか。愚かな生者どもよ」
リッチの声は骨の奥から響くように低く、広間全体を振動させた。
「幾度討たれようとも、我は死なぬ。――貴様らも、この墓所の糧となるがいい」
立ち上がると同時に、闇の奔流が広間を満たした。
骨の杖を振るうと、虚空から稲妻のような黒炎が奔り、アレフたちへ襲いかかる。
「来るぞ!」
デュラが盾を構え、火花を散らしながら防御する。
リッチは力ある魔導師であった頃の知識をそのまま持ち、不死の術式で強化されていた。
放たれるのは、高位の闇魔法と死霊召喚。
だがその一撃一撃は確かに脅威でありながら、どこか粗雑でもある。
――幾度も討たれた理由はここにあった。
力は凄まじいが、戦術に乏しく、持久戦に弱いのだ。
アレフは冷静にそれを見抜く。
「力押しだな……なら、こっちは連携で崩す!」
「了解!」
仲間たちは即座に陣形を組み直した。
まずライカが詠唱を開始し、氷の嵐を呼び起こす。
「《氷槍嵐》!」
無数の氷槍が広間を覆い、リッチの動きを鈍らせた。
だがリッチは骸骨の腕を広げ、黒い結界を展開して耐えきる。
「クククッ……凍てつく氷も、死の冷気の前では無力よ」
アスタロスが前に出て、結界に戦斧を叩きつけた。
「なら、ぶっ壊してやるまでだ!!
ーー裂断衝ッ!!」
魔力を込めることで刃の耐久力を上げた渾身の一撃。
戦斧がきしむ音を立て、結界にひびを刻む。
そこへアレフが駆け込み、ひび割れた箇所に憤怒の手甲を押し当てる。
「爆ぜろ! 炎獄――ヘル・ファイアッ!!」
まるで怒りを爆発させたように黒炎が爆ぜ、結界が崩れ落ちる。
リッチが一歩退き、虚ろな眼窩が光を帯びた。
「小癪な……」
リッチは再び杖を振り、骸骨兵を召喚する。
十を超えるスケルトンが武器を構えて現れるが――
「僕に任せて!」
ライカが氷壁を展開し、骸骨たちを一列に凍り付かせた。
続けてアスタロスが戦斧を床に叩き込む。
「破衝烈斬ーークラッシュ・バースト!!」
衝撃波が床を伝い、凍った骸骨が次々に爆ぜ、崩れ落ちる。
「召喚にばかりかまけていて良いのかや?」
シノが冷ややかに言い放つ。
「ーードラゴン・テイルッ!!」
竜気を纏った竜尾の一撃がリッチの胴体をかすめる。
苛立ったリッチは、強大な闇の奔流を直線状に放った。
広間を裂くほどの魔力がアレフたちに迫る。
「ライカ!」
「任せて! 輝印結界ッ!!」
ライカが光の印で強力な守りのバリアを張る。
衝撃が広間を震わせ、彼女の身体をシノが支えねばならないほどだった。
「ぐっ……ライカ、耐えるのじゃ……!」
その隙を突き、アレフがリッチへ突進する。
「ブースト・フレグランスッ!!」
ジェームスが支援を送り、脚力を増幅。
アレフの剣が、ついにリッチの胸骨を貫いた。
「これで――!」
だがリッチは笑った。
「我が命脈は……常に最愛の者と共にある!」
爆ぜるような魔力が広間を覆い、アレフは弾き飛ばされた。
リッチは胸を抉られながらも再生を始める。
その速度は冒険者たちが幾度も手を焼いた所以だった。
「やはり……核が別にあるのか」
アレフが苦々しく呟く。
だがシノは震えながらも叫んだ。
「核が見つからなくても……今は一時的でも封じれば良い……」
「封じる……か」
アレフは立ち上がり、剣を構え直す。
戦術は固まった。
ライカが魔力を封じる結界を張る。
デュラが盾で防ぎつつ、リッチの眼前に飛ばした首で威圧する。
ーー生じた一瞬の隙
アレフが渾身の一撃を叩き込む。
広間の光と闇が激突し、数刻にも満たぬ激戦が繰り広げられる。
やがて――リッチの体が大きく崩れ始めた。
「馬鹿な……また、敗れるのか……」
骸骨の王は断末魔を残し、漆黒の炎と共に崩れ落ちた。
広間に静寂が戻る。
アレフは肩で息をしながら、仲間たちを見渡した。
「……やった、のか」
ジェームスが首を振り、冷静に言う。
「いえ。彼はまた復活するでょう。核を破壊せぬ限り」
「でも、きっと魂たちも……少しは解放されたよね?」
ライカは魔導書を握り締め、震える声で言った。
アレフは剣を収め、仲間たちへ小さく頷いた。
「今はこれで、十分だ」
死霊王の残骸が砂のように崩れ落ち、広間に散っていく。
だが、その奥底に潜む闇が再び目覚めるのは――数日後のことだった。
次回タイトル:048話 仮初めの勝利




