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万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


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042話 脱出

シノとジェームスが勝利を収めた頃、アレフたちはーー



洞窟の空気は重く湿っていた。

冷たい風が吹き抜けるたびに、背筋を這い上がる寒気が仲間たちの心を揺さぶる。

その暗黒の中で、金属音が響き渡る。


「カチリ、カチリ……!」


迫りくるメタルスコーピオンの群れ。

前にはギガントワーム、後方には鋼鉄の虫たち。

挟み撃ちの地獄に、一同の表情は凍り付いていた。


「……畜生、詰んだかよ」


アスタロスが歯噛みし、戦斧を構える。


「まだだ……まだ手はある」


アレフは必死に頭を回転させ、鋭い眼で周囲を見渡した。


その時ーー


《抗うな。力を解放しろ……》


脳裏に艶めいた声が響く。

色欲の呪具から聞こえてくる、甘美で底冷えするような囁き。


《抗うな、お前にはその資格がある》


「……うるさい、黙れ!」


アレフは声を荒げ、頭を振った。


「こんなのは窮地でも何でもねぇ! 呪いの力を使うまでもねぇんだよ!」


仲間たちが一斉にアレフに視線を向ける。

ライカは特に不安げに見つめ、震える声を漏らした。


「アレフお兄……ちゃん?」


シノやアスタロス、デュラまでが訝しげな顔をする。

だがアレフは首を振り、吐き捨てるように言った。


「わりぃ……けど、本当に何でもないんだ。それよりも今は、この状況をどうにかするのが先だ」


アレフは再び洞窟を見渡す。

そして気付いた。


――ギガントワームの足元に散らばる、無数の装備品。

犠牲となった冒険者たちが残したものだ。武具、鎧、盾……金属は喰われても完全に消化されず、消化しかけた中身の体ごと吐き出されている。


「……なるほどな」


アレフの瞳が鋭く光った。


「ライカ!」


「は、はいっ!」


「幻影魔法を使え。メタルスコーピオンを“ジャイアントラット”に見せろ!」


「え、ラットに……?」


「それから俺たちは……デュラ、お前の鎧姿をコピーしろ。全員を鎧の戦士に見せかけるんだ」


「なるほど、つまり……」


デュラが頷いた。


「そうだ。あのワームは、“鎧姿の人間が食いづらい”ことを知っている。なら、あのスコーピオン共が“食いやすい餌”に見えれば……」


ライカは慌てて詠唱を始め、幻影を展開する。

次の瞬間、メタルスコーピオンの群れはジャイアントラットの姿に変わり、逆に仲間たちは鉄の鎧で覆われた重装兵のように見えた。


「よし、後は...…」


アレフは息を呑む。


効果はすぐに現れたーー


ギガントワームは螺旋の顎を鳴らし、鎧姿のアレフたちには目もくれない。

瞳孔がぎらりと光り、幻影のラットを見据える。

次の瞬間――大顎が唸りを上げた。


「ゴオォォォォッ!!」


鋼鉄の巨体が突進し、ジャイアントラットの幻影を纏ったスコーピオンたちを次々と丸呑みにしていく。


「カチリッ!? カチリッ!?」


抵抗するも、次々と飲み込まれる金属の群れ。


「……よしっ! 上手くいった!」


アレフが声を上げる。

だが、喜ぶのはまだ早い。


しばらくして、ギガントワームの動きが急に鈍くなった。

全身をのたうたせ、苦悶の叫びを響かせる。


「効いてる……中で暴れてるんだ!」


アレフの顔に笑みが浮かぶ。


ギガントワームの腹部が膨れ上がり、赤黒い体液が飛び散る。

やがて――。


「ギィィィィ……!!」


断末魔の叫びと共に、鋼鉄の爪が体内から突き出された。

血肉を切り裂き、ずるりと姿を現したのは、無残に傷ついたメタルスコーピオンだった。


その鋼殻はギガントワームの胃液で溶かされ、ぼろぼろに崩れかけている。


「……随分といい姿になったじゃねぇか!」


アレフが剣を構え直した。


「今度こそ、仕留めるぞ!」


アスタロスが戦斧を振りかぶる。

デュラも盾を構え、ライカが後方で魔法陣を描く。


傷だらけのメタルスコーピオンは最後の力を振り絞り襲いかかってきた。

だがその動きは鈍い。


「うおおおおおッ!!」


アスタロスの戦斧が甲殻を砕き、デュラの剣が深々と突き刺さる。

アレフは止めとばかりに首を狙い、鋭い一閃を放った。


金属の悲鳴と共に、メタルスコーピオンは崩れ落ちた。


「……やった、の?」


ライカが恐る恐る問いかける。


「おう、間違いねぇ」


アレフは大きく息を吐いた。


静寂が戻る。

巨大なギガントワームも、無数のスコーピオンたちも、もう動かない。


「……行くぞ。ワームの掘った通路を辿れば、外に出られるはずだ」


アレフが前を指さす。


一行は慎重に足を進め、長い長い洞窟を抜け出した。

外の光が差し込んだ瞬間、誰もが胸いっぱいに空気を吸い込む。


「生きてる……本当に、生きてるんだ……!」


ライカの頬に涙が伝った。


その時――上空から竜の影が舞い降りてきた。


「……! あれは……!」


「シノだ!」


黒き竜――シノが翼を広げ、仲間たちを見つけた。

彼女は嬉しそうに咆哮を上げ、地に降り立つ。


「おぬしら……! やはり無事だったんじゃな!」


人の姿に戻ったシノは駆け寄り、真っ先にライカに抱きついた。


「アレフ様……ご無事で何よりでございます」


ジェームスは安堵の笑みを浮かべる。


「……あれくらいの事でくたばったりしねぇよ。 お前の方こそ、無事で良かった…ジェームス」


アレフもほっと笑みを浮かべる。


「まさか、サミュエルが“聖浄神殿”の手先だったとはな……だが、案内人がいなくなっちまった……」


アレフが悩んでいると、シノが唐突に遠くを指差した。


「その事なら心配いらん。飛んでいる時に見つけたんじゃ。あの先に……ザーバラの街がある」


仲間たちの顔に光が差す。

砂塵と血の匂いに満ちた死闘を越え、ようやく見えた次の目的地。


「でかした、シノ! よし……なら、行こうぜ」


アレフが一歩踏み出す。


そして一行は、新たな旅路へ歩み出した。


――迷宮のような洞窟の死闘を越え、彼らは次なる舞台、ザーバラの街へと向かうのだった。

次回タイトル:043話 ザーバラの街と死霊王の影

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