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万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


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038話 裏切り

鶏鍋の宴の一夜が明け、名残惜しさを振り払うようにアレフたちは腰を上げた。

ジェームスは片付けを完璧に済ませ、執事らしい仕草で一同を促す。


「……アレフ様、そろそろ出発しましょう。このまま行けば、陽が沈む頃には谷を抜けるはずです」


「よし、出発だ。」


アレフの一声に、一行は縦列を組む。

先頭には目と耳のいいシノ、アレフとデュラが後に続き、中央にサミュエル、その後ろにアスタロス、そして最後尾には鋭い眼差しのジェームスが控え、完全な布陣を整える。


不気味なほど静まり返った谷間を黙々と歩き続けるアレフたち。

両側にそびえる切り立った岩壁の圧迫感と、魔物を警戒しながら進む緊張感が徐々に彼らを疲弊させていく。

それでも、ジェームスの見立て通り、夕刻には無事に谷を抜けようとしていた。


「少し早いが、今日はここで夜営だ。明日は陽が昇る前には出発する」


少しでも涼しいうちに歩を進めたいというアレフの考えに一同が頷く。


そうして迎えた翌朝。

夜明け前の淡い青が谷間を染め、渇いた大地に皆の影が長く伸びる。

吹き抜ける乾いた風が昼の灼熱を予感させる。


改めて見ると、見渡す限り広がる砂の大地。まさに砂の海といった様子だった。


「アレフ様、ここからはサミュエル殿に案内を任せましょう」


ジェームスの視線に気付いたサミュエルは軽く頷き、おもむろに前に出た。


「では皆さん、私についてきてください」


ザーバラの街出身の彼なら、比較的安全に街まで案内してくれるだろう……

誰もがそう考えていた。

しかし、後にその考えが油断であったと、後悔することになることを彼らは知らない。


「……想像以上の暑さだな。 ライカ、大丈夫か?」


道中、まだ幼いライカのことをアレフはずっと気にかけていた。


「うん、大丈夫。何かね、グリモワールが冷気のこもった魔力で僕を包んでくれてるみたい」


ライカを主人と認めた魔導書は、以来何かと彼女に助力を与えているのだという。


「その魔力…こっちにも分けてくれよ。このままじゃ焼け焦げちまうぜ」


アスタロスがげんなりした様子で愚痴をこぼす。


「おおっ、焼肉か? そいつはいいな!」


「俺様は牛肉じゃねぇ!」


「なら、せめてミルクを頼めるかの?」


「出ねぇ!って言ってんだろッ!!」


冗談めかしたやり取りに、一同の緊張がわずかに和らぐ。

しかし砂漠は無慈悲だ。陽が昇るにつれ、肌を刺す熱が襲いかかり、蜃気楼が遠くに揺らめく。


「――休憩は小まめに取るぞ。無理をすれば、一瞬で命を落とす。」


アレフの言葉に、誰もが真剣にうなずいた。


そして、一行は砂丘を越え、まだ見ぬ危険と試練の中へと歩みを進めていった。



砂丘を越え、ひたすら続く砂の海を進むアレフ一行。

先頭を歩くサミュエルの足取りは軽く、まるでこの道を知り尽くしているかのようだった。


「……なあ、本当にこの道で合ってんのか?」


アスタロスが渋面を浮かべると、サミュエルはにこやかに振り返る。


「ええ、間違いありませんよ。私を信じてください。」


その笑みはどこか貼りついたようで、砂漠の熱気とは別の冷たさを漂わせていた。


――そして、その時だった。


「……待つのじゃッ!」


シノがぴたりと足を止める。耳が微かな震動を拾っていた。


次の瞬間、地面が轟音と共に弾け飛ぶ。

砂を巻き上げ、巨大な影が姿を現した。

鱗ではなく、砂に覆われた肉体。掘削機のような牙が並ぶ大口を開いたそれは――サンドワームだった。


「なっ……!? どういうことだ、サミュエル! ここは安全なルートじゃなかったのか!?」


アレフが驚愕する間もなく、別の場所でも砂が爆ぜ、次々とサンドワームが這い出してくる。


「囲まれてる……!」


アレフは即座に剣を構える。しかし、数は五体を超えていた。


そのとき、不気味な笛の音が砂漠に響き渡る。

吹いているのは――サミュエルだった。


「サミュエル……! 貴様!」


アレフの怒声に、サミュエルはもはや笑みを隠さず告げる。


「申し訳ありませんね、皆さん。私の主はザーバラの街ではなく――《聖浄の神殿》。

異端の方々には、ここで散っていただきましょう。」


裏切りの言葉と同時に、サンドワームたちは一斉に牙を剥いた。


「ちぃッ! 油断した……ギルドにいた時から仕組まれていたのか!」


アレフが叫ぶや否や、砂が足元から崩れ落ちる。


「なにッ!? 流砂……だと!?」


サミュエルが再び笛を吹いた瞬間、砂漠は大地そのものが罠であるかのように形を変え、アレフたちの足を飲み込んでいく。


「アレフ様ッ!!」


ジェームスが必死に手を伸ばすが、その腕も虚しく砂に沈み込む。


絶望的な状況の中――


「――ッ!」


シノの身体が眩い光に包まれ、次の瞬間、巨大な魔竜の姿へと変貌した。

漆黒の鱗を纏った巨体が砂を蹴散らし、流砂の中から飛び出す。


背には、辛うじて掴まっていたジェームスの姿があった。

だが、他の仲間たちは……砂に呑まれ、影も形も見えない。


「……アレフ様……!」


魔竜の背でジェームスは悔恨に歯を食いしばる。


対するサミュエルは、冷笑を浮かべたまま笛を構え直す。

砂漠の地鳴りとともに、無数のサンドワームが一斉に魔竜へと襲いかかる。


「さあ――あなた方の最期を、砂の底で奏でて差し上げましょう。」


乾いた風が笛の音を運ぶ。

砂漠の真ん中、魔竜と執事のコンビ VS 神殿の尖兵サミュエルとの死闘が幕を開けようとしていた。

次回タイトル:039話 鋼の群れと奈落の巨獣

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