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万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


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033話 色欲の祭壇 後編ー― 暴かれた幻惑

サキュバス(インキュバス)が優美に脚を組み替え、口角を吊り上げる。


「人間ごときが、これ以上どれほど足掻けるのかしら」


アレフは額から大量の汗を滲ませながらも、不敵に笑った。


「……足掻く? そうだな。俺たち人間は、最後の最後まで足掻く生き物だぜ」


「強がりを……」


サキュバスが薄く笑い、魔方陣を展開しかけたその時――


アレフの瞳がギラリと光った。


「――演技は終わりだ!」


次の瞬間。

シノの爪がピタリと止まり、ライカの詠唱が途中で途切れる。

ジェームスは背筋を伸ばし、品の良い笑みを浮かべる。


「お見事でございます、アレフ様。お芝居はこの辺りでよろしいでしょうか?」


「……え?」


サキュバスの表情から、余裕が吹き飛んだ。


「そっ……そんな! 私の魅了が……!?」


アレフが剣を構え直し、にやりと笑う。


「お前が“女には男、男には女”の幻を見せて操るって特性……最初から知ってたんだよ」


「僕の幻影魔法で、シノと僕を“男”に、ジェームスさんを“女”に見せかけてただけ」


ライカが微笑む。


「……つまり」


シノが爪をカチリと鳴らす。


「最初から、魅了なぞ効いてなかったっわけじゃ」


「“暴食”ぅぅ……っ! あんたの入れ知恵だね……!!」


サキュバスの声が怒りに震える。

その矢先、アレフの姿がスッとかき消えた。


「き、消えた...!?」


サキュバスが驚きの声をあげる。

次の瞬間、姿を現したアレフの剣の切っ先が、彼女の背中に向けられていた。


彼は、先日襲撃した野盗のアジトで首領が使用していた“姿隠しのローブ”を回収していたのだった。


「てめぇが勝ったつもりで油断するのを待ってたぜ……これで形勢逆転だ」


「ふざけるなァァァ!!!」


サキュバスが悲鳴のように叫んだ瞬間、アレフは踏み込んだ。


「その”怒り”……もらうぜ! 終わりだ、淫魔ッ!」


サキュバスの怒りを糧に、憤怒の手甲からこれまで以上の黒炎が噴き上がる。

禍々しい黒炎を纏った鋭い一撃が走り、サキュバスの背中を切り裂いた。

甘い香りと共に、黒い血が飛び散る。


「ぐッ……!」


サキュバスの美貌が苦痛に歪む。


しかし彼女は次の瞬間、妖艶な笑みを取り戻した。


「……残念ね。ここで私が終わるとでも?」


床に刻まれていた魔方陣が光を放つ。

その輝きが操られていた冒険者たちの身体を包み込み――


「やめろっ!」


アレフが叫ぶより早く、サキュバスは両腕を広げた。


「――エナジードレイン」


冒険者たちの体が震え、力が吸い取られていく。


「う、あ……っ」


「た、助け……!」


生命力を啜るように、サキュバスの傷が瞬く間に癒えていく。

血は止まり、切り口は塞がり、まるで最初から傷などなかったかのように。


「や、やめろ! あいつらは関係ない!」


アレフが叫ぶ。


サキュバスが恍惚とした声を漏らす。


「安心なさい。彼らを殺したりなんかしないわ。だって、彼らにはこれからも私の糧になってもらうのだから」


冒険者たちは次々に意識を失い、床へ崩れ落ちた。

全員、命はある。しかし、生命力を吸われ活動できなくなったのだ。


だが、これもアレフの計画だった。

アレフは歯を食いしばり、拳を震わせてみせる。


(エナジードレインね……それも知ってたさ。 これで、無傷……とは言えねぇが、冒険者たちを殺さずに無力化は済んだ。こっちの条件は満たせた……!)


サキュバスは息を荒げながらも、笑みを浮かべる。


「あなたたちがどれほど策を弄しても……結局、私の前には無力よ」


アレフの口角が、ゆっくりと吊り上がる。


「無力? いや――ここからが本番だ」


サキュバスが怒りに顔を歪め、声を張り上げる。


「ならば! 魅了ではなく……精神そのものを支配してあげる!」


床に複雑な魔方陣が浮かび上がり、眩い光を放ち始める。


「マインド・コントロール!!」


アレフ、アスタロス、デュラの頭を、ぞわりと冷たい感触が撫でた。

意識の奥に、侵入してくる何かがある。


「くっ……こいつ……!」


呪いではない、魔法による精神支配はグラトニーでは喰らえない。

アレフは必死に耐えながらも、焦りを隠せなかった。


だが、その時。

静かに一歩、床を踏みしめる音が響いた。


「――やれやれ。汚れ仕事は、やはり執事の役目でございますな」


ジェームスが背後から歩み出てきた。

手にしているのは銀色のスプレーボトルと、白い布。

そこには彼自らが調合した、特殊な洗浄液が満ちている。


「武闘執事道…クリーニング編ーー

エレガント・クリーニング――イレイザー!!」


布が魔方陣を撫でると、光がじゅうじゅうと音を立てて消えていく。

刻まれていた魔法文字が滲み、霧散し、完全に消え去った。


「へっ……!?」


サキュバスが素っ頓狂な声をあげる。

何が起きたのか理解できず、唖然とした表情で固まっている。


ジェームスは眼鏡を押し上げ、完璧な笑みを浮かべる。


「魔方陣も道具も所詮は“汚れ”。執事にとっては掃除の対象にすぎません」


「今度こそ終わりだ!」


アレフが駆け出す。


サキュバスは後退し、恐怖の色を浮かべる。


「ま、待ちなさい! 私を殺せば、色欲の呪いが――!」


「心配するな。呪いは“喰わせる”」


アレフは渾身の力で魔剣を振り下ろした。

グラトニーの刃がサキュバスを貫き、断末魔の悲鳴が地下水路に響いた。


その瞬間、色欲のペンダントは輝きを失い、呪力が溢れ出す。

グラトニーがうねるようにそれを喰らい尽くした。


アレフは静かにペンダントを拾い上げ、呟いた。


「……“ラスト”。お前の名前は今日からそれだ」


《……あなたに従うわ》


ぞくり、と背筋に冷たい戦慄が走る。

それと同時に、アレフは己の胸に“新しい力”が宿ったのをはっきりと感じていた。


対象の精神を惑わし、意のままに操る【魅惑の支配】。

さらに、魅了した相手から生気を吸い取り、自身の傷や状態異常を回復することすらできる【エナジードレイン】。


本来の代償もまた明白だった。

グラトニーが呪いを喰らっていなければ、力を使えば使うほど、自分の理性が削られ、やがて“ラスト”の囁きに飲み込まれていく――。


色欲のペンダントに黒い輝きが戻り、新たな力として完全にアレフのものとなった。

次回タイトル:034話 呪縛の囁きと黒影の監視者

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