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万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


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029話 救出

石造りの冷たい床が、シノとライカの足裏を刺すように冷やしていた。

二人は野盗に捕まり、両手を縛られ、錆びた鉄格子の檻に押し込まれていた。

首元には、禍々しい黒鉄の輪――隷属の首輪が光を鈍く反射している。


「……アジトを突き止めるためとはいえ、この状況はやはり不快じゃの」


シノが低く愚痴をこぼす。

竜人である彼の本性は既に露見しており、野盗たちからは好奇と欲望に満ちた視線を浴びていた。


「でも良かったです。僕……また捨てられるのかと思って、泣きそうになっちゃいましたもん」


ライカは必死に笑顔を取り繕っていたが、アレフと出会う前のことを思い出したのか……その目からは、今にも涙がこぼれ落ちそうだった。

彼女もまた、尖った耳を隠す術はもう無く、ハーフエルフであることが明らかにされていた。


「でも、アレフお兄ちゃんは必ず来てくれる」


ライカの声音には、不思議と確信めいた響きがあった。

シノは不敵に笑い、壁に背を預ける。


「そうじゃの。あやつなら、絶対に。……それまでに妾たちも少し動いておくかの」


二人は気づかれぬように耳を澄ます。外では野盗たちの声が飛び交い、酒臭い笑い声と、捕らえられた村人たちのすすり泣きが混じっていた。


「――次は王都の奴らにも売りに出すんだとよ」


「シノ……今の、聞いた?」


「うむ。どうやら妾たちだけじゃなく、村人も売り物にされるってことらしい」


ライカは拳を握りしめる。


「許せない……」


「焦るでない。情報を掴むまでは……の」


シノは竜人の鋭敏な聴覚を働かせ、外の会話を拾い続ける。

彼女の竜眼は、鉄格子の隙間から廊下を巡回する見張りの動きさえ捉えていた。


その間にも、アレフとデュラは首無し馬に跨がり、村外れの森を駆け抜けていた。


ジェームスとアスタロスは、万が一に備え、護衛として村に残していた。

その際、アスタロスが「そんな面白そうなこと……置いてけぼりなんて酷いぜ兄貴!」などと駄々をこねたが、デュラの首がそれを黙らせた。


「そろそろ着く頃だ」


アレフは短く告げ、手にした魔剣グラトニーを握り直す。


デュラが軽く頷く。


「感覚共有で、シノたちの見てる景色は全部拾えてる。檻の位置も、廊下の構造もな。……お前は突撃して暴れてくれ。俺は裏から忍び込む」


「承知」


たった一言にすぎなかったが、その声には自信と忠誠心が滲んでいた。


森を抜けると、岩山の麓に掘られた粗末な洞窟が現れる。松明が灯され、数人の野盗が門番のように立っていた。

アレフは低く呟く。


「ここが……アジトか」


彼は懐から布地を取り出し、呪力を編み込んで耳に押し当てる。


「……繋がった。シノ、ライカ。聞こえるか?」


鉄格子の中で、二人は驚き、顔を上げた。


『アレフお兄ちゃん……!?本当に、聞こえる!』


ライカの声が、直接意識に響く。


『おう。状況は掴んでる。これから突入する。……お前らはしばらく耐えろ』


『うむ。だが気をつけるのじゃ、けっこう数が多い』


シノが応じると、アレフは小さく頷き、デュラを見やる。


「……さて。お手並み拝見とさせてもらうぜ」


「……期待に応えるとしよう」


次の瞬間、デュラが岩肌を踏み砕いて飛び出した。


「襲撃だぁあ!」


門番の野盗たちが一斉に振り返る。


アレフはその隙に、影のように動き、裏手の裂け目から洞窟内へ忍び込んだ。


洞窟の奥、檻に近づいたアレフはグラトニーを掲げる。


「……喰らえ」


黒き剣が低く唸り、隷属の首輪を噛み砕くように呪いを吸い上げた。

ライカとシノの首輪が次々に砕け、黒い霧となって消えていく。


「……っ! 軽くなった……!」


ライカが首に手を当て、安堵の息を吐く。


「こいつは……いつ見ても驚きじゃな」


シノも首を回し、自由を取り戻した感覚を噛みしめる。


「村人たちのも全部だ」


アレフは檻の奥に並ぶ村人たちの首輪も同じように解除していった。

恐怖に怯えていた彼らの目に、わずかな希望の光が戻る。


「お前らは後ろからついてこい。決して前に出るんじゃないぜ」


アレフはライカとシノに頷き、剣を構える。


「……行くぞ」


その頃、中央広間では、デュラが暴風の如く荒れ狂っていた。

大剣が振るわれるたび、野盗が吹き飛び、壁に叩きつけられて呻き声をあげる。

血飛沫が舞い、戦慄が走る。


「化け物め……!」


「数で押せ! 囲めぇっ!」


だが、デュラは怯まない。そうすることが義務であるとばかりに、大剣を振り回して敵を薙ぎ払った。


そこへ、アレフたち三人と少し遅れて村人たちが駆けつける。


「……随分と派手にやってるな」


「なんじゃ……妾の分があまり残っておらぬではないか」


「デュラおじちゃん、凄い!」


「おじ……!?ライカよ…おじちゃんは止せ」


兜の中に顔が存在するのか不明だが、もし顔があるのなら、血まみれの兜のように、きっと紅く染まっているのだろう。


その一瞬の隙を野盗の一人が見逃さなかった。


「動くなぁッ!」


怒声と共に、姿隠しのローブを纏った首領らしき男がデュラの背後に現れた。

鋭い刃が、その首筋に押し当てられる。


「おとなしくしろ……でないと、こいつの首が飛ぶことになるぜ!」


周囲の野盗たちが歓声をあげる。


だがアレフは、嘲笑を浮かべた。


「首が飛ぶ、ねぇ。……いいぜ、スパッとやってくれ!」


アレフの言葉に首領らしき男は一瞬たじろぐ。だが虚勢と感じたのか、叫んだ。


「その言葉……後悔しやがれぇッ!」


刃が振り下ろされ、デュラの首が宙を舞った。


広間に絶叫が響き渡る。


「――っ!」


村人たちの目が恐怖に見開かれる。

だが、アレフは一歩も動かず、口角を上げた。


「後悔するのはお前らだ!」


飛ばされたデュラの首は、宙に浮いたまま落ちてくることはなかった。


「……主よ。少しは気遣ってくれても良いのだぞ?」


愚痴をこぼしなから、デュラは目を見開いた。


「威圧の眼光!」


デュラの双眸から、圧倒的な威圧が広間を覆う。

その殺気に、野盗たちは全身を硬直させ、声一つ発せなくなった。


「いくぞ!」


アレフの声と同時に、シノの竜炎、ライカの精霊術、そしてデュラの大剣が炸裂した。

次々と野盗たちが倒れ、広間は血と炎と絶叫に染まった。


やがて静寂が訪れる。


「……片付いたな」


アレフが剣を収める。デュラは何事もなかったように大剣を収めた。


「案外……大したことなかったな」


アレフたちは村人たちを連れ、外へと導いた。

夜明けの光が差し込む洞窟の出口に立った時、村人たちの目には涙が滲んでいた。


「ありがとう……本当にありがとう……!」


「助かった……!」


アレフは小さく頷き、仲間たちを振り返る。


「まだ始まったばかりだ。……先に進むぞ」

次回タイトル:030話 策士、温泉に溺れる

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