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万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


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150/157

150話 終焉を断つ冥雷ーー試練の終わり

黒曜石の広間に、二つの巨躯が相対していた。


一方は、魔王軍が誇る門番――魔人バルバトス。

瘴気を凝縮した漆黒の肉体に、無数の傷を刻む存在。


もう一方は――

本来の姿を取り戻した、悪魔ミノタウロス・アスタロス。


「……来いよ、門番」


低く唸るような声。

蹄が床を踏み砕き、衝撃が波紋となって広がる。


アスタロスの肉体は、もはや以前の獣人のそれではない。

筋肉は岩のように隆起し、蒼雷を帯びた魔力が角から噴き上がる。

その手に握られた戦斧――グロウアックスもまた、異様な変化を遂げていた。


刃の縁には雷が走り、

斧身には水精霊の加護を示す紋様が浮かび、

さらに、デュラの黒鎧から流れ込む瘴気が、脈打つ血管のように巡っている。


――進化している。


「面白い……!」


バルバトスが笑った瞬間、姿が霞む。


次の瞬間、空間が爆ぜた。


「《豪裂旋(ごうれつせん)》ッ!!」


アスタロスの斧が唸りを上げ、回転の勢いそのままに叩きつけられる。

だが、バルバトスは両腕で受け止め、床を削りながら後退した。


「重い……だが、致命には至らぬ!」


返す刃のように、バルバトスの拳が突き出される。


「《瘴壊掌》!!」


黒い衝撃がアスタロスを直撃。

だが――


「甘ぇッ!!」


アスタロスは踏みとどまり、斧を振り上げる。


「《雷鳴轟斬(サンダー・クレイヴァー)》!!」


雷の奔流が直撃し、広間が白く染まった。


轟音。

爆風。

衝突。


互角――。


ライカは唾を呑み、シノは拳を握りしめた。


「……すごい……アスタロスさん……」


「でも……決め手がないわ」


グリモワールの低い声が、それを告げる。


事実、どれだけ打ち合っても、

両者ともに致命傷を負うには至らない。


均衡。

それは、長引けば不利になる均衡だった。


「……チッ……」


アスタロスが舌打ちする。


「強ぇな、てめぇ……だが、まだ足りねぇ」


その瞬間だった。


床に転がされたままの、デュラの首が叫ぶ。


「アスタロス!

――“レクイエム”を使え!!」


「……レクイエム?」


「我が腕に備わった《魔導砲銃》だ!

瘴気をエネルギーとして放つ、最大出力の一撃!」


アスタロスの視線が、自身の右腕――

デュラの鎧に覆われた腕へと向く。


「けど旦那……あれは瘴気のみ……」


「違う!」


デュラが吠える。


「今のお前は違う!

雷、水、瘴気――三つが揃っている!

今なら……“重ねられる”!!」


アスタロスは、ニヤリと笑った。


「……なるほどな」


戦斧を構え、深く息を吸う。


「おい、バルバトス」


「何だ?」


「これで終わらせる」


グロウアックスが、唸りを上げる。


雷が走り、

水精霊の加護が蒼い霧となり、

瘴気が黒い脈動となって絡み合う。


三つの力が、暴れ狂いながら一つに収束していく。


「《冥雷・水禍・瘴壊》――」


アスタロスの魔力が、臨界を超えた。


「――終焉断斧(エンド・レクイエム・クレイヴァー)!!」


雷の奔流。

水圧の刃。

瘴気の崩壊波。


それらすべてが束ねられ、

一本の“滅び”となって放たれる。


バルバトスの表情が変わった。


「……これは……」


本能が告げる。


――受けるのは、まずい。


「《瘴雷飛脚》!」


バルバトスが回避行動に入ろうとした、その瞬間――


「――させねぇよ」


怠そうで、

聞き慣れた、

だが今は異様に“鮮明な”声。


カチリと、

世界が音を立てて止まった。


風が止まり、

雷が静止し、

瘴気が宙で凍りつく。


《怠惰の砂時計(レイジーテンポ)》――

時間停止。


「……?」


ライカたちは、動けないまま目を見開く。


止まった世界の中、

唯一自由に歩く少年がいた。


赤髪、青空色の瞳。

――アレフ・カース。


「……やっと本番だ」


彼の瞳には、怠惰の濁りはない。


「終わりだ、バルバトス」


時間が止まった世界でアレフだけが自由に動ける。

しかし、時間が停止している間は物質に干渉できない。

それがこの世界の理でもあった。

つまり、傷などを負わせるなどの行為はできない。


だからアレフは、剣を振るわない。

代わりに、虚空へと手を伸ばす。


黒い鎖が、音もなく現れた。


嫉妬の能力――

《束縛の鎖》。


能力、魔力、行動――

すべてを封じる呪い。


鎖は、動きを止めたバルバトスに絡みつき、

全身を縛り上げる。


「……直接干渉できないなら、他の使い道を探ればいい」


アレフは淡々と告げる。


「だから、これで十分だ」


鎖を巻き終え――


時間が、再び動き出した。


「な――ッ!?」


回避しようとしたはずのバルバトスは、

その場から一歩も動けなかった。


「何っ!鎖……だと!? いつの間にこんなもの……!?」


バルバトスは驚きと困惑の入り交じった表情が浮かべ、次の瞬間にはーー

ハッと目を見開く。


アスタロスの一撃が眼前に迫っていた。


轟音。

閃光。

崩壊。


冥雷水瘴斧が、

バルバトスの身体を貫き、

存在そのものを引き裂いた。


「ぐ……は……!」


崩れ落ちながら、

バルバトスは笑った。


「……そうか……」


視線の先には、アレフ。


「最初から……

すべて……貴様の手のひらの上……」


悔しそうに、

だが、どこか満足げに。


「……見事だ、アレフ・カース……」


その言葉を最後に、

魔人バルバトスは、塵となって消滅した。


束の間の静寂。


やがて、新たに現れた黒曜石の巨門が軋みを上げて開く。


魔界への扉。


ライカは、震える声で言った。


「……アレフお兄ちゃん……?」


アレフは、照れくさそうに頭を掻く。


「……ああ。心配かけたな」


「さては……最初から騙してやがったな、兄貴ッ!」


アスタロスは拳を振るわせ、不満を口にする。


「ふむ。お主にそんな才能があったとはの……実に見事なものじゃった」


方やシノは感心したように頷いた。


「……敵を欺くには、まず味方から……とは良く言ったものですな。流石でございます、アレフ様」


ジェームスは深々と一礼した。


「ふふ。でも、これでいよいよ……魔界ね」


グリモワールは微笑む。


こうして――

試練は終わり、

彼らは魔界へと踏み出す。

次回タイトル:151話 魔界――秩序なき大地

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