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万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


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148話 怠惰は剣を取らず、仲間が立つ

「……入る……」


アレフが呟いた瞬間――

七つの封印紋が同時に輝き、門がゆっくりと開き始める。


ギギギ……ギィィ……


黒曜石の大扉をくぐった瞬間、空気が変わった。

内部は漆黒の闇。

その奥になにか巨大な存在がいる気配があった。

空気は重く、足を一歩踏み出すたびに地が軋むような圧。

天井の高い広間は闇に沈み、中央だけに赤黒い燐光が揺れていた。


ライカがごくりと息を呑んだ。


「……まさか……?」


シノが震える声で呟く。


「うむ……あの時の……」


――かつて、ダンジョンで不意に現れ、そして立ち去った魔人。

《七つの大罪神器》を監視するために魔王軍から遣わされた者。


ドン……ドン……ドン……


足元から響く圧。

まるで地獄の深淵そのものが迫ってくるかのようだった。


闇の中から出てきたのは――


禍々しい呪力をまとった角を持つ巨躯――魔人 バルバトス。


黒鉄のような肌。

紅き双眸。

背に担がれた大剣。

全身に走る深紫の呪紋。

その存在だけで、塔の空気が冷えた。


魔人は一行を見渡し――

アレフをじろりと見た。


「――我が名は、魔人バルバトス」


バルバトスは、自分たちがかつて交わした言葉を思い出すかのように、静かにアレフへ視線を向けた。


「神器を喰らいし騎士、アレフ。

再び貴様と相まみえたこと、嬉しく思うぞ」


低く、石を擦るような声が広間を震わせた。


シノが息を呑む。

ライカが震える。

グリモワールは真剣な眼差しを向けた。


かつてバルバトスと遭遇した時のことが思い出される。



《神器を喰らいし騎士、アレフ。貴様はいずれ、呪いに喰われて己を失う。……その時こそが、我らが望む瞬間だ》


《……俺が呪いに負けるのを待ってるってわけか》


《察しがいいな。だからこそ今は殺さん。むしろ――育てる価値がある》 



だが、その呼びかけに――当のアレフは反応しない。


「…………ん」


気だるそうに、片手を上げただけだった。

怠惰の力に蝕まれ、壁にもたれて座り込み、頭をカクカクと揺らしながら半分寝ている。


その反応に、バルバトスの眉がわずかに動く。


「…………なに?」


バルバトスは困惑したように一瞬固まり――そして重く続けた。


「貴様は必ず、呪いに飲まれる。

己を失い、暴走する……

その時こそ――我らが望む瞬間だと、忠告したはずだ」


「……覚えてる……気は……する……」


アレフがぼそりと返した次の瞬間ーー

バルバトスが怒気を帯びた声を放った。


「次に相まみえる時、お前が己の意志で剣を振るうのか、それとも呪いに呑まれて化け物と成り果てるのか……どちらになるかを試す、と言ったはずだ!」


だが。


アレフはどちらでもなかった。


呪いに呑まれてもいない。

かといって、自ら剣を振るう気迫もない。


“怠惰そのもの”だった。


「…………帰りてぇ…………」


その一言。


バルバトスの頬がぴくりと引きつった。


「………………」


アレフは続ける。


「戦うの……めんどくさい……眠い……腰痛い……立つのもしんどい……」


アレフは門の前に座り込んだ。


「貴様…………!」


魔人の顔に怒りの形相が浮かぶ。


「我を、からかっているのか!!??」


バルバトスはアレフを凝視した。

アレフの瞳は濁ってはいない。

呪いによる狂気も、破壊衝動もない。


「なぜだ……なぜ、この男は……呪いに呑まれもせず、しかし意志も剣も眠らせたままなのだ!!」


バルバトスが吠えると、床が揺れた。

ゴゴゴ、と大地が震え、バルバトスの脚元から黒い瘴気が噴き上がる。


そして、アレフの胸倉を掴もうと手を伸ばす――が。


「……触るな……疲れる……」


アレフは、面倒くさそうに手を上げただけ。


「どこまでも我を愚弄するか!貴様ぁぁあ!」


バルバトスの怒りは頂点に達した。


ライカの額に冷や汗が伝う。


「怒ってる……よね?」


「うむ……これは完全に誤解されておるの」


シノが苦笑しつつも構えを取る。


「アレフ様! 起きてください! 教育的指導の時間です!」


ジェームスはアレフの肩を揺すりながら叫ぶが――


「……んぁ……ジェームス……うるさい……寝る……」


完全にダメだ。


アスタロスがアレフの前に立つ。


「おいバルバトス! 兄貴は本当に戦えねぇんだ!

だったら――俺たちが相手する!」


シノも竜爪を構え、一歩前へ。


「アレフが動けないのなら……わらわが支える」


ライカは怯えつつも、手に炎球を宿した。


デュラは静かに大剣を抜き、グリモワールは魔法陣を展開し、ジェームスは笑みの奥に鋭い光を宿す。


六人が横一列に並び、アレフを背後に守るように立った。


バルバトスは彼らを見下ろし――


「……なるほど。

貴様ら六人が、この男を守るというわけか」


「そういうことだ!」


アスタロスが戦斧を構え、叫んだ。


「兄貴抜きでも、魔界への道はこじ開ける!!」


魔人バルバトスは――


ゆっくりと大剣を引き抜いた。


刃が引き抜かれる音だけで、空気が震える。


「ならば――証明してみせよ。

貴様らが“神器を喰らう騎士”の仲間である価値を」


その目に、完全なる“試練の戦意”が宿った。


バルバトスが足を踏み出す。


ドンッ!!!


塔が揺れた。


六人は武器を構え、魔力を高め、肩を並べる。


アレフは――その背後で眠そうに座っている。


「……ふぁ……戦い……長い……?」


「アレフお兄ちゃん、寝ないでください!!」


ライカの絶叫が響いた。


アレフの怠惰は戦いの足枷となるのか。

それとも、怠惰すら武器に変えるのか。

魔界への門を巡る壮絶な試練が、今ここに始まる――!

次回タイトル:149話 覚醒する猛牛――首無し騎士と悪魔の契約

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