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万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


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146話 怠惰の英雄ーーそれでも歩む

世界樹のうろを抜けてセルフィリア大陸へ帰還した一行は、豊穣の街を目指して森を進むことになったが――。


「兄貴、ちょっとは……自分で……歩けよ……!」


「……ムリ……歩くの……しんど……眠い……」


「またかっ!!」


アスタロスはこの旅だけで百回目となるツッコミを入れた。


とはいえ、アレフの足どころか気力さえも機能していない以上、どうにもならない。

結局、今のアレフはデュラが連れている愛馬“首無し馬”に乗せられ、ぬいぐるみのようにだらんと座っている。


「アレフ様、しっかり掴まってくださいませ。落ちたら危のうございます」


「……掴むのも……めんど……」


「掴まんかい!!」


アスタロスの怒号が森に響く。


隣でライカは完全に疲れ果てていた。


「もう……無理……。一分ごとに『疲れた』だの『眠い』だの……ほんとにアレフお兄ちゃんなの……?」


シノもほぼ同じ状態だった。


「我もここまで怠惰なアレフを見るのは初めてじゃ……。これは……骨が折れるのう……」


ジェームスは苦笑しつつ、


「ま、まあ……そのうち元に戻るとグラトニー殿もおっしゃっておられたわけですし……気長にまいりしょう」


と励ましたが、本人が一番気楽なのがいっそう腹立たしい。


デュラだけは無表情――いつも通りだが――どこか気遣うようにアレフの様子を見ている。


そんな道中を経て、一行はようやく“豊穣の街”へ辿り着いた。



街の大通りに足を踏み入れた瞬間。


「アレフさまっ!!」


柔らかな光を纏って聖女ジャンヌが駆け寄ってきた。

白い衣を揺らし、その青い瞳は喜びに輝いている。


だが次の瞬間、その瞳は凍りついた。


「えっ……な、なに、この……状況……?」


ジャンヌの視線の先――


アレフ、ぐったり。

アレフを支えるライカ、ぐったり。

横でシノ、ぐったり。

アスタロスにいたっては地面に膝をつき、天を仰いでいた。


彼らの表情は完全に魂が抜けている。


「……何があったのですか?」


「まあ……説明すると長いのですが……」


ジェームスが苦笑し、グリモワールもくすりと笑う。


「アレフ様が、怠惰の大罪神器の呪いに感染しておりまして……その……ええと……」


「とにかく……全部……めんどくさいらしい……」


アスタロスが涙声で叫んだ。


ジャンヌはこわごわアレフに近づく。


「アレフ様……?」


「……ああ……ジャンヌ……来てたんだ……おはよ……」


「寝てたんですかっ!?」


「……寝てた……けど……また寝たい……」


ジャンヌは思わず口元を押さえる。


驚愕――のはずだった。


が、次に来たのは。


(……なっ、なんですか、この破壊力……!!)


聖女の胸に、母性が込み上げた。


(この脱力顔……普段のキリッとしたアレフ様とのギャップ……! 放っておけない……! 守らなくては……!)


あまりの可愛さに、頬がほんのり紅潮する。


――完全に母性本能を刺激されていた。


しかしジャンヌは必死に表情を整え、聖女としての顔に戻る。


「いえ、し、失礼しました! と、とにかく私の浄化魔法を……」


ジャンヌはアレフに手をかざす。


が――


「……これは……っ」


ジャンヌは眉をひそめ、ゆっくりと首を横に振った。


「ごめんなさい……わたしの術では……どうにもできません」


「ええ!? ジャンヌでも無理なのかよ!」


ライカが叫ぶ。


「怠惰の呪いは……生命活動そのものを“怠惰化”させるものです。治癒魔法は怪我や魔力異常には効きますが……精神や存在に刻まれた呪いには……」


ジャンヌは肩を落とす。


そして――アレフの力の抜けきった表情をじっと見つめ、


(か……かわいい……)


また頬を染めてしまっていた。



「……はぁ……眠いな……」


「兄貴ィィィ!! しっかりしてくれよぉ!!」


「まあまあ、アスタロス殿。無理に叩き起こすのもどうかと思いますぞ」


ジェームスは穏やかに笑う。


「ですが……アレフ様。このままでは……」


ジャンヌが不安そうに問いかける。


その声は、アレフの耳にも届いたらしい。


「……ん……大丈夫……」


アレフは重たげに瞼を上げ、静かに言った。


「……災厄の魔女を……追う……それだけは……忘れてない……」


怠惰の呪いで身体も心も重い。

それでもアレフは “核心だけ” を見失っていなかった。


ライカが目を見開き、シノも唇に笑みを浮かべた。


「……アレフお兄ちゃん……やっぱりすごい……」


「たとえ怠惰でも……使命は忘れんのじゃな」


「兄貴……!」


アスタロスの声に希望が戻った。


アレフは首無し馬の背でぐらりと揺れながら、続ける。


「……めんどいけど……魔界、行く……」


「やっぱり、めんどくさいのかよ!!」


総ツッコミが飛んだ。


ジャンヌはくすっと微笑む。


「アレフ様……戻られたばかりで申し訳ないのですが……魔界は危険です。どうか、無理は……」


「……無理……したくない……」


ジャンヌは苦笑しながら、


「でも……そんなあなたでも……アレフ様なら……きっとやり遂げます」


そっとアレフの手を取った。


「ですから……ご無事で。必ず……戻ってきてくださいね」


アレフはぼんやりとした顔で頷く。


「……ん……また……来る……」


その何気ない言葉に、ジャンヌの心は一瞬ふわっと浮き上がった。



その後、ジャンヌと街の人々に見送られ、一行は街を出発した。


向かう先は――


バベルの塔。


かつて攻略した、あの大迷宮。


その頂上に、魔界へと繋がる“扉”があるのだ。


「兄貴、ほんとに歩かねえのか?」


「……歩くの……面倒……」


「頼むから、早く元に戻ってくれぇ……!」


「まあいいじゃないか。デュラ殿の馬なら安全ですしな」


ジェームスが笑うと、デュラは頷き、愛馬の背中を優しく撫でる。


グリモワールはライカの横を歩きながら、


「アレフ君、この先また強敵と戦うんだからね! その時までに怠惰は克服しておいてね」


「……んー……努力……したくないけど……がんばる……」


「どっちなのよ!!」


一行の喧騒を背に、街道を風が抜ける。


ジャンヌは遠くから手を振っていた。


アレフは馬上でぼんやりその姿を見つめ、


(……ジャンヌ……またな……)


心の中で小さく呟いた。


そして――


一行は魔界への入口がある“バベルの塔”を目指し、ゆっくりと歩き出した。

次回タイトル:147話 怠惰の英雄ーー最短ルートで天を突く

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