↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
143/157

143話 怠惰の深淵

内部は広大だった。王の謁見室を思わせるが、装飾はすべて色褪せ、くすみ、崩れている。

天井から差し込む光も弱々しく、どこか眠気を誘うように淡い。


「あれ……?」


ライカが小さく声を上げた。


玉座に座っているはずの“守護者”は、そこに── 横たわっていた。


紫の長い髪を床に垂らし、仰向けになって寝そべり、欠伸をしながら片手で頬杖をついている。


「んぁ……。もう来たの? はやい……」


声も覇気がなく、瞼も半分しか開いていない。


しかし、その身体から放たれる呪力の密度は、今までの怠惰な魔物たちとは桁違いだった。

アレフたちの肌に、粘りつくような重圧がのしかかる。


「……お前が“怠惰の守護者”か」


アレフが言うと、


「そう……ボクは“怠惰”を司る者。……あんまり覚えてないけど」


「覚えてないのかよ!?」


アスタロスが叫んだ。


「……めんどくさいんだもん」


守護者が片手をだらりと振った瞬間。


空気が重くなる。


「……え、なに……これ……」


ライカが膝をついた。


「身体が……鉛みたいじゃ」


シノの声も弱々しい。


ジェームスでさえ、眉をひそめ立つのがやっと。


アレフだけは、平然と立っていた。


「これが……“怠惰の呪い”か」


「うん……。なにもかも……どうでもよくなる。立つのも、喋るのも、食べるのも、呼吸するのも……。

 ……そのうち、生きるのもめんどくさくなるよ……」


守護者の声は眠たげだ。

しかし内容は凶悪そのものだった。


「やばいぜ兄貴……! これ……マジで……」


アスタロスが床に手をつく。


アレフはすぐに呪いの正体を見抜いた。


(呪力による侵食……精神と肉体、両方を蝕むタイプ……!)


だが、自身には通じない。


「だったら──喰えばいい」


暴食の魔剣が小刻みに震え、憤怒の手甲が黒く染まり、禍々しい紋が浮かび上がる。


「グラトニー、ラース! 呪力を喰らい尽くせ! 黒炎の傷痕《ダークスカー》!!」


アレフが仲間たちに手をかざすと、呪い喰らいの黒炎が仲間の身体を覆う黒い膜を焼き、ドロリとした瘴気が吸い込まれれる。


「……っ! 身体が……軽く……!」


ジェームスが息を吸い込んだ。


「助かったのじゃ……アレフよ……!」


しかし、アレフは眉をしかめていた。


(呪いの密度が……魔物の比じゃない。これを全員分となると……)


守護者は相変わらず寝そべったまま、つまらなそうに呟く。


「ふわぁ……別に戦わなくてもいいんだよ……? ここで寝れば……全部どうでもよくなるよ……」


「ふざけんな!」


アスタロスが怒鳴り、拳を構える。


「てめぇ、兄貴の仲間を弱らせて寝ろだぁ!? ふざけんなよ!」


「あ……叫ぶの……うるさい……」


守護者の指先がわずかに動く。


次の瞬間。


ーー空間が歪んだ。


「アスタロス! 伏せろ!」


アレフが叫ぶよりも早く、


アスタロスの身体が── 止まった。


「ッ!? 兄……貴……?」


完全に時間が凍結したかのように、アスタロスの動きが止まっている。


「……“怠惰の時間停止(レイジーテンポ)”……」


守護者は壁に寄りかかり、欠伸を漏らしながら言った。


「めんどうな相手は……止めちゃえば……いいんだよ……」


「時間停止……!」


ジェームスの顔色が変わる。


しかし、アレフだけはすぐに理解した。


(この停止……純粋な時間操作じゃない。呪力による“行動意欲の停止”……!

 動く意志を奪われ、行動の概念ごと止められてる……!)


「……アスタロスから離れろ」


アレフは呟き、鋭く光る眼を守護者へ向けた。


「その能力……解除してもらう」


「えぇ……やだ……」


守護者が顔を背ける。


「なんで……そんなめんどくさいこと……しなきゃいけないの……?」


「理由は一つだ。……お前を倒す気でいるからだ」


アレフの影が、ゆっくりと禍々しく広がりはじめる。


仲間たちは呪いに抗うだけで精一杯。

アレフ一人だけが、守護者の呪力に飲まれず立っていた。


「……でも……今すぐ倒すのはむりだよ……?」


守護者が怠そうに手をひらひらと振る。


「だって君……さっきからずっと……呪いを喰うのに集中してるでしょ……」


「……っ」


アレフは拳を握りしめる。


確かにその通りだった。

仲間全員に襲いかかる“怠惰の呪い”を喰い続けているかぎり、攻勢に出る余裕がない。


(こいつ……自分の特性を理解してる……!

 呪いをばら撒き続け、俺に喰わせる……その間に“時間停止”で潰すつもりか……!)


守護者はまた大きな欠伸をした。


「ねむ……。もう寝たい……君たちも寝てよ……」


次の瞬間、広間の空気がさらに重くなった。

まるで海底のような圧力が足元から吹き上がり、視界が暗くかすむ。


「……く……そ……」


ジェームスが片膝をつく。


「アレフ……また、呪いが……!」


シノの小さな身体が震えた。


アレフは全員の呪力を吸うため再び手をかざす。


(くそ……このままじゃ俺はずっと守りに徹するしかない……! しかも時間停止で牛野郎は戦力外……。 このままじわじわ仲間が衰弱していけば……)


守護者の声が遠くから響く。


「……ねぇ。無理しないで……。 休んじゃいなよ……?」


「誰が……お前なんかの言うこと……きくかよ……!」


アレフは黒い炎を散らし、守護者を睨みつけた。


その瞳だけは、どんな呪力にも濁らない。


守護者はようやく、ほんの少しだけ興味を示すように目を開いた。


「へぇ……君だけは……止まらないんだね……? おもしろいよ……人間……なのに……」


そして、だらりとした手をほんの少し持ち上げた。


「じゃあ……次は……君だけを止めるよ……?」


空間が震えた。


アレフの身体が、重力を増したかのように沈み込む。


(まずい……これは……!)


仲間を守りながら、自分も止められまいと全力で抗うアレフ。


守護者の怠惰な声が、天から降りてきた。


「――“怠惰の深淵(スロース・アビス)”」


視界が暗転し、音が消えた。


アレフの身体が、地面に沈み込むように動きを奪われていく。


(……くそ……このままじゃ……)


守護者の瞳が、ようやく薄く笑った。


「おやすみ……英雄さん……」


ーーアレフの視界は完全に闇へと閉ざされた。

次回タイトル:144話 怠惰を縛る嫉妬

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。