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万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


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133/157

133話 海を裂く咆哮と覚醒する幽霊船

真夜中の海を裂きながら、《黒衣の英雄号》は唸りを上げて突き進んでいた。


甲板では、ライカとグリモワールが風魔法を維持し、ジェームスが魔導舵輪を握って船体を安定させている。

アレフたちが幽霊船に飛び移っていってから、まだ十分ほどしか経っていなかった。


「……妙ですね。海流が乱れている」


ジェームスが眉をひそめる。


「え? さっきより?」


ライカが不安そうに海を覗き込む。


「うむ。まるで……何かが海底で蠢いているかのようです」


ジェームスが言い終えるより早く、海面が――盛り上がった。


ぶちぶちぶち、と海水が裂けるような音。

次の瞬間、海が爆ぜたように何かが飛び出した。


「きゃぁあ!? で、でかっ……!!」


ライカが反射的に叫ぶ。


海面から現れたのは、蛇のように細長く、それでいて戦艦ほどの質量を持つ巨大なウミヘビ。

ウロコの隙間からは冷たい青光が漏れ、目は爛々と輝いている。


「シーサーペントか!」


デュラが叫ぶ。


「なんでこんな化け物がこの海域に……!? アレフ君たちは幽霊船で戦闘中だというのに……!!」


グリモワールが険しい表情を見せる中、ジェームスが舵を切ろうとした。


その瞬間――


「――来るぞッ!!」


デュラの叫びと同時に、シーサーペントが口を大きく開いた。

次の瞬間、砲撃じみた“水塊”が放たれた。


ドゴォォオンッ!!


黒衣の英雄号の横腹に、巨大な海水の弾丸が直撃する。


「きゃあっ!」


「ライカ!?」


ライカとグリモワールが吹き飛ばされそうになるが、デュラが二人の前に立ちはだかり、大剣で水塊を叩き落とした。


「か、海水を浴びせるのはやめろ! 錆びたらどうする!!」


デュラが悲痛な叫びを上げながら、次々と飛来する水塊を必死に切り裂く。


「デュラさん、すごい……! でも無理しないで!」


ライカが風魔法で弾幕の軌道をずらし、グリモワールも防護結界を展開する。


「グリモワールは海水とか平気なの?」


「ふふ……私は防水加工が施されているから平気よ」


グリモワールがどや顔で言う。


「デュラさん……街に戻ったら、錆止め塗料を買ってあげるね?」


ライカが小さく笑う。


「う、うむ……かたじけない……!!」


デュラは水塊を叩き切りながら、死に物狂いで踏ん張っていた。


だが、シーサーペントは攻撃の手を緩めない。

巨体をくねらせ、海面を滑るように接近してくる。


「来るわよ……今度は噛みつきかも!」


グリモワールが叫ぶ。


その予言はすぐに当たった。


シーサーペントが吠え、その上半身が甲板へと滑り込んできた。

濡れた木板がきしみ、船体が大きく傾く。


「うわっ、近い近い近い!!」


ライカが悲鳴を上げ、ジェームスが踏ん張って舵を抑える。


「なぜ俺ばかりを狙う!!」


デュラが必死に逃げ回るなか、シーサーペントの視線は確かに彼を追っていた。


「あなたから漏れだしてる瘴気に惹かれてるみたいね」


グリモワールが冷静に状況を分析する。


「ち、ちょうどいいわ。デュラ君、そのまま囮になってちょうだい」


「なんだと……!!わ、我は盾ではないぞ!!」


「でも今は盾になってもらわないと船が沈むわよ?」


グリモワールがさらりと言い放つ。


「俺は鎧だから浮かべないのだ!?」


シーサーペントの巨顎がデュラに迫る。

デュラはギリギリのところで大剣を盾のように構え、弾き飛ばされながら後退した。


「ライカ、行くわよ!」


「う、うん!」


二人は同時に両手を掲げる。


「《風裂衝》!!」

「《雷鎖急落》!!」


風と雷の魔力が渦を巻き、シーサーペントの上半身に直撃した。


バリバリバリッ!!


ガァァアアアッッ!!


海獣の絶叫が響き渡る。


痙攣しながら、シーサーペントが甲板に倒れ込む。


「今よ! デュラ君!」


グリモワールが叫ぶ。


「うぉぉぉぉお!!!」


デュラが大剣を振り上げ、シーサーペントの胴を真っ二つに叩き切った。


ぶしゅああああっ……!


切断された下半身が海底へ沈み込み、上半身だけが甲板上で暴れ回る。


「しぶとい……!!」


デュラは吼え、跳躍し、全体重を込めて大剣を突き刺した。

刃が頭蓋を貫通し、甲板にまで達する。


シーサーペントがびくりと震え――動きを止めた。


「……し、殺ったか?」


デュラが息を切らしながら問う。


「ええ。完全に沈黙したわ」


グリモワールが魔力探査をして頷く。


その瞬間。


ドン……ドン……ドン……


まるで海底から巨大な太鼓が鳴るような振動が、船全体に響き渡った。


「ま、また何か来るの……?」


ライカが青ざめる。


「違う……これは幽霊船の魔力反応よ!」


グリモワールが声を上げた。


「アレフ君たちが……何かしたみたいね!」


黒衣の英雄号の周囲の海が、不気味に波立ち始めた。



シーサーペントを撃退した直後の甲板には、まだ激しい戦闘の余韻が残っていた。

だが、休む暇は一秒たりともなかった。


海底から響き続ける“ドン、ドン……”という脈動音は、次第に大きく、重く、明確な“意志”を帯びてゆく。


「ジェームスさん、これって……」


ライカが震える声で問う。


「……ええ。いまも幽霊船でアレフ様たちが戦っている……いえ、何かが起こっているようですね」


ジェームスが舵輪を握りしめる。

黒衣の英雄号の周囲を照らす魔装灯が、不気味に明滅した。


そのとき――


海が、裂けた。


バシャァァァアアン!!!


「えっ!? また来るのっ!?」


ライカが叫ぶ。


「いえ……これは違う……!」


グリモワールが眼を見開いた。


海面から飛び出したのは新たな魔物ではなく、巨大な“木片”。

黒焦げになった板、折れたマスト、砕けた舵――どれもが幽霊船の一部に見えた。


「船が……崩れてきてる?」


ライカがつぶやく。


「いや、これはただの余波じゃないわ。幽霊船そのものが……本気で怒っているのよ」


グリモワールの声は低く、重かった。


次の瞬間、海面が盛り上がり――黒い影が伸びた。


ザザザッ……!


「な、何だアレぇ!?」


ライカが悲鳴を上げた。


海面から生えてきたのは、黒々とした“板”であり、同時に“腕”のようでもある奇怪な物体。

木材と呪詛が混じり合った塊が、まるで触手のようにうねりながら船へ襲いかかってくる。


「幽霊船の……『怒りの具現化』」


グリモワールが呟く。


魔獣のように自己再構築を始めた幽霊船の破片が、意思を持つ怪物となって迫ってくるのだ。


「ジェームスさん、回避!!」


「承知しております!!」


ジェームスが必死に舵を切るが、海中から伸びる“木の触手”はあまりにも多く、避けきれない。


迫る――!


「デュラ君!!」


グリモワールが叫ぶ。


「任せろッ!」


デュラが大剣を振りぬき、一本の触手を真っ二つに切断する。


しかし、切り裂かれた木の塊は、黒い霧となって即座に再構築される。


「き、切ったのに元通りに……!?」


ライカが目を見開く。


「呪詛系……破壊が意味を成しにくいタイプだわ」


グリモワールが歯噛みした。


その間にも、触手は船体を締め付けようと巻き付いてくる。


ミシミシ……ッ!


「やばいっ、圧迫されてる! 船が折れるよ!!」


「ジェームスさん! 魔導炉を最大出力に!」


「わかっております!! しかし、これ以上は船体が……!」


ぎりぎりの攻防が続く中――

ライカが深く息を吸い込んだ。


「ぼ、僕も……やる!!」


ライカは両手を掲げ、魔力を一点に集中させた。


「《竜吼・風皇の喉笛》――!!」


甲板に陣が広がり、ライカの喉から発せられた声が風の奔流となって放たれた。


ゴォォォォオオオオ!!


巨大な風の咆哮が、取り巻く触手を一気に吹き飛ばす。


「な、なんだこの威力……!? ライカ 孃、こんな魔法、いつの間に――」


ジェームスが驚愕する。


「ジャンヌさんに教わったの……“発声の魔力化”。えへへ……やっと形になっただけだよ!」


「やっとでこの破壊力……さすがは私が認めた主ね!」


グリモワールが思わず口元を緩める。


触手は吹き飛んだが――


「まだだ……! 来るぞ!」


デュラが叫んだ。


海面がさらに黒く染まり、巨大な影が隆起する。


――何かが、上がってくる。


「これは……船そのものが化け物化してるのか!?」


ジェームスの声が震える。


海面から姿を現したのは、幽霊船の“顔”とも言うべき巨大な船首像が、歪んだ骸骨のように変形した怪物だった。


黒衣の英雄号を喰らわんと、口のように割れた船板が広がる。


「ひぃっ……あれ、食べられるやつだよね!? 絶対に!?」


「ライカはともかく……私とデュラ君は金属だから、食べても美味しくないと思うのだけれど……」


グリモワールが淡々と答えた。


「淡々と恐いこと言わないでぇ!!」


だが、最も冷静だったのはデュラだった。


「ライカ! グリモワール! 下がっていろ!」


「どうする気なの?」


「デュラさん!」


二人は同時にデュラを見つめる。


デュラは甲板を蹴り、怪物の船首へ跳躍した。


「俺が押し返す!! お前たちは船を守れ!!!」


漆黒の怪物が迫り、破壊の顎が開く。


「うおおおおおおおッ!!」


デュラはその顎を、大剣で強引に押し留めた。

腕が震え、船板がきしむ。


(我が時間を稼ぐ……アレフよ、後は貴様がどうにかしてくれるのだろ?)


現在(いま)も幽霊船で戦っているだろうアレフに対し、切に祈るデュラだった。

次回タイトル:134話 深淵回航のアトランティス号

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