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万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


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130話 深緑の羅針盤ーー旅芸団 後編

続いては――シノの番だった。


「シノ、ほんとにやるの?」


「……うむ。わらわは果物好きじゃからの」


「理由、それでいいのーー!?」


シノは旅芸団の男から渡された籠を抱えていた。

中には色とりどりの果物。


シノは中央に歩み出ると、竜爪をゆっくり伸ばし……ほそく、鋭く、光る刃のように変化させた。


「おお……」


「これが竜人族……?」


「美しい……」


観客のどよめきを背に、シノは籠の果物をすべて空へ放り上げた。


その瞬間――。


彼女の姿が消えたように見えた。


いくつもの光の軌跡が宙に走る。

果物が弾け、舞い、形を変えていく。


わずか三秒。


シノは音もなく着地した。


空中で静止していた果物は――くるり、と回転しながら卓上へ落ちていき。


「……完成」


それは、まるで花園だった。


パイナップルで作られた大輪のひまわり。

リンゴで作った紅蓮の薔薇。

メロンの葉、オレンジの花弁……細やかで、鮮やかで、芸術作品のようなフルーツ盛りだ。


「すっげぇぇぇぇぇっ!!」


「花みたい! 本物の花より綺麗!」


「どうやって切ったんだ!?」


歓声が広場を満たした。


シノは照れくさそうに頬を染め、こっそりアレフの袖を引く。


「……たまにはこういうのも悪くないの……」


「ああ、最高だったよシノ」


「当然じゃ」


その様子を見ていた旅芸団の団長は、感激で震えていた。


「ま、まさかここまでとは……! 君たち……ずっとうちで働かない?」


「絶対にお断りだッ!」


アスタロスが必死の形相で叫んだ。


続いて、第三演目。


「さぁて、お待ちかね! 驚異の切断芸の時間だぜぇっ!!」


団長の派手な口上に、観客がどよめく。


アレフはステージ中央に立つ。

隣には……なぜかやる気満々のデュラ。


「アレフよ、準備はよいか?」


「お前のほうこそ大丈夫なの?」


「もちろんだ。スパッとやってくれ」


「おお、任せろ!お前こそ、バレねぇようにしろよ?」


デュラは幻影魔法で姿を変えていた。観客には、彼がデュラハンだとは知らされていない。

ただの“切断マジック”と思われているのだ。


「さぁ、デュラくん、箱へどうぞー!」


デュラは木製の箱に入り、顔だけが見える小さな穴にぴょこっと出した。

団長が外から鍵をかける。


「さあ! アレフくん、頼んだよ!」


「……よし。いくぞ、デュラ」


「うむ、せいぜい派手に頼む」


アレフは剣を抜き、構えた。


観客が固唾をのむ。


「切断!!」


ザシュッッ!!


箱は、首から上がまっぷたつに切り裂かれた。

観客たちが「うおおおお!」とどよめく。


そのまま――上部の箱がゴロンと転がり、デュラの首がごとんと床に落ちる。


「頭落ちたぁぁぁぁぁっ!!」


「えっ、えっ、えええ!?!?」


「マジックじゃないの!?」


広場が悲鳴と歓声で混ざりあった。


アレフは慣れた手つきで、デュラの首が入った箱を持ち上げ、元の位置に戻す。


「では、開けますよー!」

 団長が鍵を開けると……


「ふぅ。見事な剣さばきだったぞ、アレフ」


何事もなかったかのようにデュラが立ち上がった。


「復活したぁぁぁぁ!!」


「どうなってんだこの芸!?」


「何かの魔法か!?」


観客は総立ちになり、歓声の嵐が吹き荒れた。


その中で――


(もともと首取れてるんだから……インチキじゃねぇかぁぁぁ!!)


だがそんな心の叫びをよそに、会場は最高潮へと盛り上がっていく。


(”芸“って……一体……)


アスタロスはこっそり頭を抱えていた。


こうして三つの演目が終わり、旅芸団の公演前半は大成功を収めた。



夕方。

太陽が海へ沈みかけ、広場全体が黄金色に染まりはじめると、旅芸団の公演はついに後半へ突入した。


「さぁてぇぇ!! 本日のクライマックス前!」


団長の声が響く。


「命知らずの脱出王! アレフくんによる“水中脱出芸”だぁ──ッ!!」


ざわめきが広場を走る。


「脱出芸だって!?」


「棺みたいな箱に入るのか?」


「水槽に沈めるって……え、危なくない?」


観客たちの期待と緊張が混ざる中、


腕、胴、足――完全に動けないほどに鎖に巻かれたアレフが舞台袖から運ばれてきた。


「……なんか緊張してきた」


「安心しろ兄貴、兄貴ならできる!」


「牛野郎、お前の“根拠のない励まし”が一番不安なんだよ!」


アレフは恨めしい目をアスタロスに向ける。


「それでは……アレフくんを棺に収める!」


団長と数人の団員がアレフを鉄製の棺の中へ押し込み、蓋が閉じられ、鍵がかけられた。


「よーし! 次は、この棺を──」


団長が指を鳴らすと、巨大なクレーンが棺を吊り上げる。


「水槽に沈める!!」


どよめき。


棺が、ゴゴゴゴ……と音を立てながら、透明な巨大水槽へと運ばれた。


水槽の中には海水が満ちており、青色の照明が怪しく揺らめいている。


「お兄ちゃん、ほんとに大丈夫かな……」


ライカが心配そうに見上げる。


「心配無用にございます。アレフ様ですから……」


ジェームスが平然と答えると同時に――棺は水槽の中へ落とされた。


ザッパァァァン!!


無数の泡が舞い、水槽が大きく揺れる。


観客が息を呑む。


「おい、あの鎖……本当にほどけるんだろうな……?」


「ほどけなかったら洒落にならんぞ……」


「子供に見せて大丈夫かこれ……?」


誰もが不安げに水槽を見つめる。


しかし――


数秒後。


水槽の底で、白い光がふっと瞬いた。


(今だな)


アレフは心の中でつぶやき、そっと力を緩めた。


バンッ!!


鎖が霧散し、消え去る。


(さて……脱出っと)


アレフは棺の中でくるりと回転すると、鍵穴に指を差し込んだ。

内部から押すだけで外れるように“加工済み”だ。


カチン。


鍵が外れ、蓋を押し退ける――


ザバァアアアッ!!!


アレフが水面から飛び出した。


スポットライトが彼を捉える。


「ぬおおおおおおっ!?!?」


「出てきたぁぁぁ!!」


「どうなって鎖をほどいたんだぁぁ!!」


広場が再び大歓声で揺れた。


「ご清覧、ありがとうございました」


アレフは軽やかに舞台へ着地し、濡れた髪を振り払って一礼する。


しかし、この脱出芸には秘密があった。


少し前の舞台裏ーー


アレフは小声で(束縛の鎖……)とつぶやく。


そう……アレフが縛られていた鎖は、

“嫉妬”の能力のひとつ《束縛の鎖》だった。

本来なら触れた相手を拘束する攻撃用スキルだが、こうして見栄えのする小道具としても使える。


そして何より――


アレフが解除すれば簡単に消える、便利スキル……


アレフの背後で――


(やっぱりインチキじゃねぇかぁぁぁぁ!!)


アスタロスが声にならない悲鳴を上げていた。


こうして、アレフの脱出芸も大成功を収めた。


いよいよ公演のトリを飾る演目。


「さぁ……ラストは我らが歌姫! グリモワールちゃんとオート・マタたちによる! 歌と踊りのフィナーレだぁ!!」


派手なスポットライトが当たり、グリモワールが舞台中央に登場する。


その後ろには、金属の体に魔導核を宿したオート・マタが五体。

人型、獣型、球体――様々な形をしており、その動きは驚くほど滑らかだ。


「ふふふ……なんだか楽しくなってきたわ!」


グリモワールは胸を張り、ステッキを回す。

オート・マタたちが反応し、楽器を構え、舞の姿勢を取った。


音楽が始まった。


美しい旋律とともに、グリモワールは踊りだす。

作り物とは思えぬその動きはーー

まるで風のように軽やかで、まるで炎のように力強い歌声が広場を包んだ。


オート・マタたちもまた、完璧なリズムで演奏し、踊り、光を放つ。


「すげぇ……!」


「人間よりうまくねぇか……?」


「歌も踊りも完璧じゃん……!」


 そのとき――。


「アレフお兄ちゃん! ぼくも歌いたい!!」


「ダメに決まってんだろ!!」


「絶対にやめてくだされ、ライカ孃!!」


「お主、公演を台無しにする気か!!」


全員に全力で止められ、ライカは膨れっ面になる。


「ひどいよ……ぼくの歌、そんなにダメ……?」


「ライカよ、お主が前に歌ったとき、村のガラスが全部割れたじゃろ……」


「あれは……ちょっと強めに歌ったせいだもん……」


それを聞いた観客はざわついた。


「あの子……声でガラス割るの……?」


「それはそれで見てみたいな……」


ライカはしょんぼりと肩を落としたが、

その裏で、アスタロスはひそかに震えていた。


(……なんかもう、今日ツッコミすぎて寿命縮まった気がする……)


そして、公演はついにフィナーレを迎えた。


音楽が止まり、グリモワールが深々とお辞儀をする。


「みな……ありがとー!!」


オート・マタたちも一斉に頭を下げる。


観客たちは総立ちになり、嵐のような拍手を浴びせた。


それは、アレフたちにとって忘れ難い舞台となった。


そして、終幕。


観客たちは大喝采で立ち上がる。


「ありがとう!!」


「最高だった!!」


公演は大成功に終わった。



テント裏に戻ったアレフたちをヴィオが満面の笑みで迎える。


「こんなに盛り上がったのは久しぶりだ。


旅芸団の団長は感極まったようにアレフたちへ駆け寄る。


「みんな……本当にありがとう! 公演は大成功だ!!」


「いや、こちらも楽しませてもらっよ」


アレフが笑って言うと、団長はふっと表情を引き締めた。


「さて……約束だ。《深緑の羅針盤》の情報を渡そう」


ヴィオは胸元のポケットから、一枚の古い地図を取り出した。


アレフたちは息を呑んだ。


「深緑の羅針盤。あれの……在りかの情報を教えてほしい」


「わかった。全部話そう」


団長は静かに語り始めた。


「数百年前、港から三日ほど行った海の上に“海上都市アトランティス”があった。そこに住む古代人が、羅針盤を作ったと言われている」


「アトランティス……」


「そんな街があったんだ……」


「あった?」


ライカとシノが顔を見合わせる。


「理由は謎とされているが、都市は滅び……海の底へ沈んだ。しかし――」


団長は指を立てた。


「街ごと覆う結界が、今も残っているらしい。つまり、アトランティスは沈んだまま、海底に存在している可能性が高い」


「海底都市……!」


アスタロスが感嘆の声を上げた。


「深緑の羅針盤も、その中にあると……?」


「ああ。その可能性が高い。

 ただし――都市にたどり着く方法まではわからない」


「いや、それだけ聞ければ十分だ……」


アレフは頷いた。


(次の目的地は……海底都市アトランティスか)


こうして、アレフたちは貴重な情報を手に入れた。


翌朝。


「よし、みんな。準備して次の目的地へ向かうぞ。

――海底都市アトランティスへ!」


「おおーっ!!」


こうして、アレフたち七人は再び旅立つ。


海の底に眠る都市へ、

そして“深緑の羅針盤”を求めて。


新たな冒険が、静かに幕を開けた。

次回タイトル:131話 霧に漂う亡者の影

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